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謀反人 長野業正

天文16(1547)7月13日



関東管領上杉憲政は武蔵を後北条に追われてしまい、本拠地である上野国を守りを固めた。まだまだ関東管領の力は残っている。そう確信している憲政は今回の自らの出陣を決めた。



「業正め!家臣の分際で何度も何度も「河越の野戦で大敗してまだ間もなく、足場を固めることこそ肝心。せめてあと、3年お待ちくだされ」と言っていたが待っていたら武田が信濃を獲ってしまうではないか!それに伊勢(北条)にも増長を増やすだけではないか‼︎」



忠臣である長野業正の諫言を聞かず、なんとなりふり構わず業正を牢屋に投獄したのだ。



ここで死力を尽くしてでも武田軍を撃ち破らなければいけない。まだ関東管領は滅びてはいないのだ。この私がいる限り関東管領は滅びぬ。父親を追放して国を乗っ取り諏訪氏滅ぼした、名門でもある甲斐源氏の宗家、武田家ともあろう者が他国に侵略すること嘆かわしい。それでは下賤と何ら変わらぬ。関東管領の権力強化のためには倒さねばならない。




「申し上げます。前方に武田軍と思われる軍勢が待機しております」



「うむ。数は!」



「数百です」



憲政は細く微笑む。



「まだ志賀城は落ちてなく、こちらに向ける軍勢が数百とは……物見であろう。関東管領ともあろう者が舐められたものよ!全軍武田の軍勢に向けて突撃開始‼軽く蹴散らせ︎」



上杉軍は旗の数からして数百の武田軍目掛けて突撃を開始した。







・武田信之




………。


やっと関東管領が来たか。遅かったな。しかし、馬鹿みたいに突撃を開始してきたな。罠だと思わないのか?家臣達も有能なものが居ないのか?




「よし、敵は罠にかかった。敵の攻撃が当たらない程度に退却する!退却!」




信之を守る工藤兄弟が率いる百の手勢が撤退を開始する。





上杉軍は届かないの矢を射かけてくる。



さて、あと少し退却したら甘利殿と板垣殿が潜んでいる所まで誘い込める。



「祐長!甘利殿と板垣殿に合図を送れ!」




「はっ!」




祐長は2人の家臣にそれぞれ虎泰と信方がいる方向へ合図である狼煙をあげた。




天文16年(1547)7月10日


■上野国 緑野群 平井城 牢獄


関東管領 上杉氏の居城の牢獄の中に1人の老将が座っていた。


その名は長野業正。


上野国箕輪城城主であり在原業平を祖先とする名門だ。山内上杉家の重臣であったのだが、10日ほど前に主君、上杉憲政に諌言をいい投獄されてしまったのだ。



「………」



ただ一言も喋らず静かに目を閉じて瞑想をしている。




(憲政様はどうしておられるのだろうか?今頃は信濃に入り武田と戦中だろうか……)



憲政に投獄された身なのだがそれでも憲政の心配をする。



(今、武田と戦えば必ずと言っても過言では無い必ず負け戦…。我らは河越の戦いから連戦で疲弊しきっておるし、野戦が得意な武田相手に勝ち目などは無いはずだ。何故わからぬのだ!このままでは上杉家が滅びる……。しかし、今の儂では何も出来ぬし。それに既に上杉の家臣では無くただの謀反人だ……こうして牢獄へ入っているからな…)



業正はなんとも言えないこの気持ちを必死に堪えていた。





「上杉家重臣、長野業正様で間違えないでしょうか?」


ふと、後ろから儂の名前を尋ねる声が聞こえた…。声からして少女の声だろうか?

儂の領地からわざわざ来たのか?



業正は声がした方へ身体の向きを変えながら、目を開ける。


「いかにも、関東管領 山内上杉家重臣 長野業正。と言っても儂はついこないだ、上杉家臣では無く謀反人になったのじゃがの、お主は?」


「望月千代女でございます」


そこにいたのは領民では無く忍び装束を来た少女であり武田家の重臣と名乗ったのだ。という事は敵国の…


「はて…望月は滅ぼされたはず…、すまんがそう認識しておるが?」



「はい、その通りです。信濃望月本家は滅びました」



「という事は六角家の傘下であり甲賀筆頭の望月の出か?」



「はい、その通りです。流石、殿が言った通りこのまま謀反人にさせるのには勿体無いです」



「殿?誰が儂の事を言ったのか?」



「私の主君である武田信之様です」



「武田信之…聞いたことが無い…。甲斐の武田の者か?」



「はい。甲斐武田家当主である武田晴信様の三男、武田信之様です」




「なるほどのぅ…儂に何用か?」



「この牢獄から脱出していただきたいのです」



「しかし…儂は上杉家の…」



「それは昔でしょう?今はただの謀反人です。失礼ながら関東管領なのにあんな暗愚な主君でいいのですか?あれでは民が泣きまする」



「はっきりと言うのう。信之殿はそうならないと?」



「はい、必ずや民を守り豊かにします」



業正は再び目を閉じた。数分後、業正は答えた。



「わかり申した、儂で良ければお力になりましょうぞ。して信之殿…いや信之様ですな、この老骨は信之様のところへ行けば良いのですかな?」




「いえ、業正殿にはこの上野国を攻略して頂きたいのです」



「ほぅ、あの分からず屋に帰るところを与えないのですな。わかり申した」




業正はようやく立ち上がり、千代女と牢獄を脱獄する。



「私は上野諸将に調略を仕掛けます。業正殿は箕輪城に戻り兵を率いて制圧して行ってください」



「うむ、任された」



そう言うと業正は自分の居城 箕輪城に千代女はその場から消えて手の者達と共に各城へ調略を仕掛けに行ったのだった。



それから5日後、上野国は陥落したのだ。ほとんど諸将達が武田方に鞍替えた。その報は瞬く間に近隣諸国に広まったのだった。

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