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うらやましい

「みかんが、羨ましい……のか、牧本は」


「……そうだよ。みかんって優しくて努力家だし、可愛い。それに、絶対私みたいに悪口言っちゃったりしないじゃん」


「……」


 確かにみかんは時々変になるときはあるけど、色々完璧な人だと思う。


 特に、牧本が最後に言った、努力家というのは、本当に昔からそのまんまだ。


 だから、大好きなダンスをずっとやっているんだろう。


 でも、牧本だって今までダンスを続けてきているわけだ。


 僕は遠い昔にやめたサッカーを思い出した。


 結局、あまり上達しないまま、やめたいと思っていた頃に両親が離婚して。


 家事をやらなきゃいけないことにならなくても、サッカーをやめていたんだろうなと思う。


「今日……久々にみかんに会って、なんか色々思い出しちゃった」


 牧本は床に体育座りをして、ちょうど蛍光灯と蛍光灯の間の、何もない天井を見上げた。


「みかんとの昔のことか……?」


「そう……」


 牧本はそう言って今度はうつむいた。


「牧本……僕さ、とっくにサッカーやめてるんだよね」


「……あ、そうなんだ。小学生の時毎日サッカーボール抱えてたのに……」


「……うん」


「……今は何をしてるの? バスケとか?」


 牧本が訊いてきた。


 サッカーをやめてバスケか。そういや、シスコンすぎてお子様ランチにはまってしまった万佐樹は、最近バスケにもはまってるんだったな。となんとなく思い出した。


「今は何をしてるかか……そうだな」


 言いづらい。という思いが途端に強くなった。レモンをかけすぎた料理を食べた時のように。


 だけど……。僕は、今までお子様ランチを食べてくれた人たちを思い浮かべた。そして、一緒に作ってくれた料理部のみんなを思い浮かべた。朝一緒に走ってくれた花凛を思い浮かべた。一緒に水族館に行ったみかんを思い浮かべた。


「僕は今……お子様ランチを作っているんだ」


 僕はなるべく簡潔に説明した。お子様ランチを作ることが好きになるまでの流れを。


 そして、今日のみかんと花凛の発表を見に行くのをやめようと思ってしまったことを話した。


 牧本は頭を押さえていた。


「あの……ごめん。ちょっと展開がすごくてついていけない……」

 

「ごめん……」


 やっぱりな。だけどここからは自分なりにちゃんと言おう。


「僕……ずっとみかんが一生懸命ダンスと向き合っているしているところを見てきた。たぶん……それは牧本だってそうで……それをないがしろにするような行為をしようとした僕に言う資格はないけど。だけど、僕はみかんにも、牧本にも、気持ちよくダンスを踊って欲しくて……きっとみんなそうで……だから」


 僕がそこまで言って牧本を見ると、牧本は立ち上がっていた。きっとみかんがいるであろう方へと歩いて行く。


「田植」


「なに……?」


「こんな私のところに来て色々言うんじゃなくてさ、ずっと彼女のみかんの横にいてあげなきゃダメじゃん。……あーあ、また変にひねくれたこと言っちゃった」


「……」


 僕は、黙って牧本の後ろを歩いた。お互い足音は小さい。


 ダンス部が集合しているところまで来て。


 みかんはおびえたりすのようにそこにいた。


 牧本は、振り切れたようにみかんへと走った。


 よく耳をすますと、会場の中から手拍子が聞こえる。


 一つ目のグループが始まって盛り上がり始めた頃のようだった。


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