間に合え
「……あ、叩きすぎでしたねごめんなさい!」
僕が痛すぎて硬直していると、浜辺さんがおたまが床につきそうなくらい頭を下げて謝った。
しかし、浜辺さんはそのままバウンドするかのように頭を上げた。
「先輩……先輩は、どうしてお子様ランチを作りたいのですか?」
「……」
「私はきっと、誰かに美味しいって言って笑顔になってほしいからだと思います」
「その通りだな……」
僕はうなずいた。うなずくと頰の下の方がひりひりする。
「やっぱりです。でしたら先輩、食べてくれる人がいないといけないのではないですか?」
浜辺さんはおたまを静かに調理机の上に置いて言った。
「そうだな…………そうか……」
「……そういうことです」
浜辺さんの言葉で今更気づいた。
僕がしようとしていたことは、立場を逆にすれば、みかんと花凛が僕のお子様ランチを食べることをはなから断るようなものだ。
そんなひどいことをしようとしている人に、怒りを覚えるのは当然だ。
自分しか、お子様ランチのプレートしか見てなかった。
「……先輩! 片付けは私たちでやるので、今すぐホールに向かってください!」
浜辺さんは僕に叫んで、調理室の扉を示した。
「早くしないと遅れますよ!」
「そうなんだけど……ごめん……ありがとう……」
あまりに自分が情けなさすぎて思わず動けなかったが、自分を責める暇がない。早く駅に向かわないと間に合わない。
僕はエプロンを脱いで丸めてカバンにしまって、調理室を出た。
走りながら心の中でおたまで自分をたくさん殴る。
ずっと練習を頑張って、夜も動画で修正点を洗い出して、またさらに頑張ってるみかん。
なわとびダンスやってると話してくれた時、楽しそうな笑顔を見せていて、朝一緒に走ってくれた花凛。
頭の中で二人が一緒に練習している風景が思い浮かぶ。
それだけではない。みかんには柚川や、他のメンバーもいて、花凛にだってきっとチームメイトがいるはずだ。
そして、全員で練習をしてきたはずだ。
今更僕は思った。
誰かの努力を応援する。誰かの全力の気持ちを受け止める。
それをおろそかにするような人に、食べた人を笑顔にするお子様ランチなど、作れるわけがないと。