さいてい!
午前中はとても有意義に使えた。
しかし。
あとちょっとだけやりたい、という気持ちの連続だった。
「もうちょっと試作しよう」
僕は壁の時計の方を見て言った。作ったものを食べているのでみんなお腹は空いてないはず。
時刻は十二時半だから、まだダンス発表会には間に合うはずだ。
ギリギリまでやるしかない……。
僕は型を使って人参をお花型にひたすらカットする。
プリンも作りたい……でもそしたら間に合わないよな……。
心の中でそう思ったとき、一つ、思い出したことがあった。
そういや、動画でダンス発表会、見れるんだよな……。
僕は考える。別に、動画で見てもいいんじゃないか。ホールでやるんだから、花凛もみかんも、僕が来てるかなんて分からないし、それでもいいんじゃないか。
そうしたら僕は、午後までたっぷり試作ができる。
「……そう言えば、今日は午前だけ活動だったよね。時間大丈夫なの?」
時計を見て考えていた僕に萌門さんが訊いてきた。
「え……? ああ……午後もやるか」
「やります! やりましょう!」
「やる、田植ちゃん!」
浜辺さんがおたまを持ってえいえいおーって感じのポーズをとり、萌門さんがそれに合わせる。
「……みんな都合は大丈夫?」
僕は尋ねた。
「私は大丈夫です。夜まで、一夜明かしても問題ないです」
「おっけー、ぴーす。大丈夫」
阿田さんと、木屋戸さんは、大丈夫みたいだ。
中見さんは……
「私も大丈夫ですけど、田植先輩は大丈夫なんですか?」
「え……僕?」
「はい。今日ダンス発表会ですよね。クラスのダンス部の人から聞きましたけど。そしたらみかん先輩見に行かなくていいんですか?」
あ、そういうことか、中見さんはダンス発表会が今日って知っていたんだな。
「……それは……………動画で見れるみたいだから後でそれを見ればと思って……」
僕がそう答えた瞬間、頰に衝撃が走った。
……いたい……。
何が起こったのか見てみれば、浜辺さんが僕をにらんでいた。おたまで僕をビンタしたようだ。多分手のひらの三倍くらい痛かった。
おたまを握りしめた浜辺さんは言った。
「さいてい! 最低の、先輩です!」