みかん⑨砂浜散歩
未来と未羽と別れてから一時間半たって。
一応再入場スタンプを手に押してもらった私と凛太は、浜辺に来ていた。
天気がいいので、波打ち際に行くと、水が綺麗なのがわかる。
「綺麗な貝殻発見ですわ」
「……すごい巻いてるな」
「巻貝ですわね」
ちなみに、凛太はあれから、お土産やさんに隣接したカフェでもまたお子様ランチを食べた。完全にお子様ランチ方向にスイッチがかっちり入っていた。
だけど。浜辺に出ると、普通 (こっちがふつうじゃないのかも)の凛太に戻って、今は波打ち際に二人でいる。
サーフィンをしている人が少し離れたところにいるのを背景に、私は貝殻をしげしげと眺めた。
「おお……ピンクが混じってる……貝殻だ」
後ろで凛太が静かにそういい、私の手のひらに小さな貝殻を乗せた。少し海の水で濡れているお互いの手が触れた。
「綺麗……桜貝ですわ?」
「うーん……桜貝ではない気がするけど……とにかくかわいいな」
私の手と同じ高さに凛太の顔が来る。
私は貝殻の乗った手のひらをそっと閉じた。
そして、反対側の手で……凛太の手を握ってみた。
凛太が貝殻から私に視線の先を変えた。
私は凛太に目を合わせて笑った。
やっぱりデートはこういう雰囲気じゃなくっちゃね。
「……ごめん……今日、勝手にお子様ランチの方向に走って」
「ううん。私は凛太のことをわかっているから、嫌には思ってないですわ。でも……」
「……」
「もうすこし、この砂浜に一緒にいたいですわ」
「……僕も……一緒にいたい」
「……!」
私にとっては予想外の返答だった。「わかった……いいよ」みたいな返答だと思っていたから。
気がつけば、波がだいぶこちら側まで来るようになっていて、私の足も、凛太の足も、靴ごと濡れていた。
でも、それまでもが、心地よく感じられた。
凛太が私の手を握ったまま歩き出し、私はそれに続く。
お互いの腕がだんだん真下を向き、それは、互いの距離が縮まっていることを意味する。
私と凛太は、浜辺の石段までやって来た。
そこで、話した。いつもするような話、今日の水族館の話。どうでもいい話。
でも、楽しかったから、天気のいい浜辺で私は笑顔のままだった。
後ろから抱きつくような、大胆なことはできなくても。
私は凛太が好き。砂浜に押し寄せる波のようにゆっくりだけど、ちゃんと伝わった気がした。