過去④凛太サイド
朝、ぼくは自分のつかい古したサッカーボールを、マンションの前でけっていた。
「おはようですわ」
みかんがマンションの上からおりてきた。
「おお、みかん、おはよう」
さいきん、みかんはおじょうさまだとわかった。
ぼくと同じマンションにすんでいるのに、実はおじょうさまだったというのは、びっくりだけど。
とくに、せんぞくコーチがいるというのがすごい。
さいしょはしんじられなかったけど、ほんとうだと思う。
なぜなら、ここさいきん、学校で、みかんのダンスがうまくなったとわだいだからだ。
ぼくもサッカーのせんぞくコーチがほしい。でもそんなぜいたくを言ってはいられない。
とりあえずのもくひょうは、あたらしいサッカーボールを買うことだ。そして、今日、おこづかいが二〇〇〇円たまる。
「サッカーボールは、まだですわ?」
「きょうお母さんからおこづかいもらえば、二〇〇〇円たまるから買えるな。たのしみすぎるぜ」
「よかったですわね!」
「ああ、ためたかいがあった」
みかんもよろこんでくれているみたいだった。
ぼくはサッカーボールをもったまま、ランドセルをせおい、みかんと学校にむかった。
学校について、ぼくが一じかん目のさんすうのじゅんびをしているあいだ、みかんはダンスクラブの友だちとはなしていた。
「みかん、これね、ダンスきょうしつの入会とくてんで、もらったダンスシューズなんだ!」
「私ももらったしー、色ちがいで、ピンク」
「私は水色だしー!」
「みんなよかったですわね」
「ねえ、みかんはシューズもらったりしないの? せんぞくコーチから」
「……え?」
ぼくとみかんはおさななじみだからわかる。
なぜかこのとき、みかんはあせったくちょうになっていた。
ほうかご。今日は校ていでのサッカーにもさんかせず、より道せずに、家にかえった。そしてお母さんからおこづかいをもらった。
そして今からあたらしいサッカーボールを買いにいく。
ぼくがサッカーがへたなのは、こんなボロいボールでれんしゅうしているからだ。
せんぞくコーチなんていないし、せめていいボールでれんしゅうすれば、だいぶうまくなるはずだ。
あたらしいボールを手に入れ、うまくなるのがたのしみだ。
ぼくはウキウキしながらマンションをさろうとした。
でもそのとき。
ぼくはみかんの声をきいた。
しゃべってる声ではない。
小さないきぎれのような声。
ぼくはそっと、マンションのうらに回ってみた。
みかんがいた。
おどっていた。
一人で、ダンスのれんしゅうをしていた。
せんぞくコーチは、いなかった。
ぼくは気づいた。よそうはしていた。
ぼくと同じマンションにすんでいるということは、きっと中はぼくの家と同じようなかんじで、ごうていなんかじゃない。きっとせまいマンションだ。
でも、みかんは、ダンスきょうしつにかよっている人たちと同じくらい、ダンスがじょうたつしているから、せんぞくコーチがいるのは本当かもしれないと思っていた。
でも、それもちがった。
みかんはずっと一人でれんしゅうしていた。
一人でれんしゅうして、がんばってがんばって、いきぎれしてもがんばって、みかんはダンスがうまくなっていたんだ。
まるでせんぞくコーチがいるかのようなじょうたつのスピードで。
ぼくは、朝の、みかんと、みかんの友だちのかいわを思い出した。
そして、自分のサッカーボールのえがかいてあるさいふに、ポケットの中でふれた。
ぼくは、おこづかいのつかい道を、へんこうすることにした。
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過去回は次話がラストです。