電話をかけよう
部活帰り。
調理室の戸締りを確認して、鍵を胸が大きい小町先生に返してから、僕は浜辺さんとそのまま二人で下校した。
「なんか、今日の田植先輩と私、夫婦みたいだなって思いませんでしたか?」
「……うーん」
「田植先輩ならそう思うかなって思ったんですけど、まああんまりそう思わないならいいです! 違う話しましょう!」
今度は浜辺さんにたやすく考えていることを当てられた。僕は女の子に考えていることを当てさせる天才の可能性がある。
お子様ランチ以外の得意なことが見つかって嬉しく思うな。
「違う話……どんな話をしようか……」
実は浜辺さんと二人で長い間話したことはない。会話は料理部の活動中にたくさんした。
さらに話すことと言えば……。
「友達に……電話かける時って……緊張しないか……?」
無意識に、というよりもう余裕で自分で認識していることなんだけど、僕は未来に電話をかけるのを先延ばしにしている。
そもそも友達に電話をかけたことがない。
「いや、しませんよ私は! ただ……どうなんでしょう? なんか変な感じで電話を切られたりしたらこっちからかけにくくなるかもしれませんね!」
あ、僕それあてはまる気がする。
「あ、一般論を言えば自分が振ってしまった女の子とかだったらもう無理なんじゃないですか? 田植先輩の場合はそれはないでしょうけどね!」
それもな気がする。
「つまり! 田植先輩が友達に電話をかけるのに緊張するとしたら、前者しか考えられませんね! まあ後輩として先輩の友達付き合いも応援するので頑張ってください!」
「おお……ありがとう」
浜辺さんは、それから最近太ったのどうのとか、オススメのお菓子(太りにくい)の話とかをしてくれて、すごく面白かった。やっぱり料理や食べ物の話をする時が一番盛り上がる。
そして、バス停で、ちょうど来たバスに乗って行った浜辺さんと別れ、僕は家に帰ろうとした……がその前に途中で公園に寄った。誰もいない。
今にしよう……一人の時に電話をかければきっと変な勘違いはされないはず。
未だに未来が何をどのように勘違いしているのかはわからないんだけど。
僕はスマホを取り出して連絡先の未来のところを丁寧に押した。