みかん① 凛太と付き合っているのがバレてしまいましたわ
「ねえ、今日の家庭科の時間ね、田植くんがすごい面白かったよ」
ダンス部の昼練の後。私がロッカーで着替えていると、同じダンス部で、凛太と一緒のクラスの、柚川音香が話しかけてきた。
「面白かったって……、凛太が何かやらかしたとしたら困りますわ。また、お子様ランチですわね……」
「なんかね、調理実習でお子様ランチを作るのを提案して、それからすごい色々しゃべってね」
「な、何をしゃべったか教えて欲しいですわ」
「えーとね、なんかまず、お子様ランチはいかに素晴らしいかを話してて、そこはあんまり聞いてなかったんだけど。その後、小学生の女の子がお礼にあだ名をつけてくれた話とか……」
「ストップですわ! これ以上は知らぬが仏ということにしますわ」
「あ、そうならまあいっか……あ! またみかんおっぱいおっきくなってる」
「な、なってないですわ」
なんでそんなに観察してくるの?
私は音香から、本当に少し大きくなった胸を隠すために、さっさと服を着ていった。
「前に、田植くんのお子様ランチ食べたのっていつ?」
「一昨々日ですわ」
「これで私の仮説の信ぴょう性がさらに上がったね。田植くんのお子様ランチを食べるたびにみかんのおっぱいが大きくなる!」
「絶対気のせいですわ。大体そんなすぐに効果が表れるのもおかしいですし無関係ですわ」
そう否定する。お子様ランチにそんな効果があるわけがない。お子様ランチはそもそも小さな子供が食べるものだし。
「うーん、あ、じゃあやっぱり、田植くんと付き合い始めたから? もともと夫婦みたいなんだったかもしれないけど」
「え?」
「これは、仮説じゃなくて、もう私の中では確信してることだよ。ここに決定的な写真が」
音香は、下着姿のままスマホをいじりだし、そして一枚の写真を画面に表示して見せた。音香は、私と親しいこともあり、私が凛太のことを好きなのは前々から知っている。だからそろそろ気づかれるかなとは思っていたけど……。
この写真を撮られるとは。
私と凛太が手を繋いでいた。つまりまさかの記念写真二枚目が出てきてしまったということ。
「ああ……」
「ふふん。この写真、あげよっか?」
「いや、それはいいですわ。もう、写真はもらいましたわ」
「え、私以外にも撮ってた人いたの? 誰?」
「凛太の妹ですわ」
「妹! それってもしかしてライバル?」
音香が妹を勝手にお兄ちゃん大好きキャラと決めつけてきた。
「確かに兄妹で仲はいいのは確かですわ。けどそういうわけではないですわ」
「ふーん。じゃあ、みかんは田植くんを独り占めなんだねー」
「別に、そういうわけでもないですわ。料理部の後輩はみんな女子ばっかりらしいですわ」
「それは心配だね」
「そこまで心配はしてませんわ。料理部で凛太が楽しくやってればそれが一番ですわ」
「お、すごい! やっぱりもう結婚確定って感じなんだね!」
未だに下着姿のままぴょんぴょんする音香を見て、私は少し照れながら笑った。
そう、この時は、凛太の近くにいる同い年の女の子は、私だけだと思っていたのだから。