俺が寝ている間にオッサン達が何かしている様です。
<ヒロ君寝たか?>
いつの間にか置かれた計器類を眺め、ヒロが確実に寝たことをバイタルサインとしてチェックするオヤジ共。時刻は夜の2時だ。
<ああ、寝たようだ>
一升瓶を片手に機械いじりをするオヤジ。極楽ネットで揃えた工具は充実していた。
<最近発見したんだが、ヒロ君の意識が無い間に、俺達がヒロ君を操縦できるみたいだ。ちょいとテストを兼ねて今から動かしてみるぞ>
沢山の糸が伸びる指輪を指にはめ、操り人形の如くヒロを動かしにかかった。
<最近見たアニメに影響されてな。中々に格好良くて真似したくなっちまった>
<俺はうしとらの方が好きだがな……>
茜の父が右手を動かすと、ヒロの目が開きテレビに映像が映る。
「うわっ!!」
テレビに映るヒロの姉が腰を抜かしベッドの下へと落ちていた……。
<あ……タイミング悪かったな>
<どーすんだこれ……>
茜の父はとりあえずヒロの目を閉じた。
「今、ヒロが起きたような……?思わず大声出しちゃったけど、この時間は絶対起きないはずなのに……。とりあえず今日は止めておこう」
<お、姉ちゃん帰ったぞ>
<よし、それじゃあ再度発進だ>
再び目を開け、カクカクとした動きでベッドから起き上がるヒロ。
<さて…………どうしようか?>
<おいおい、無計画かよ!>
起きたはいいが、何をするか困った様子のオヤジ共。
<よし、ラブレターでも書くか>
<…………いいのかそれで……>
茜の父はヒロを椅子に座らせ、机の上にあった適当な紙の裏に文字を書き出した。
<部屋が暗くて分かり難いが、多分書けているだろう!>
<何て書いたんだい?>
<シンプルに『愛してます。付き合って下さい』って感じさ>
<歩美タンの分も書いておいてくれよ♪>
<はいよ~>
机にあったもう一枚の裏に『好きです。今夜家に行ってもいいかな?』と書き出し、ベッドの脇に置いてあった指定のスクールバッグへと入れる。
<ヒロが見つけた時に騒ぎになれば、自然とその気になるだろう>
<けけ、お主も悪よのう!>
オヤジ共はヒロをベッドへと戻し、自分たちも眠りへと就いた…………。
翌朝、妙な倦怠感を覚えながらもヒロはいつも通りの時間に目が覚める。
朝食を取り、部屋へと戻り着替えを済ます。
<いよいよだな>
<へへ、楽しみだぜ>
そしてベッドの脇に置かれたスクールバッグと、机の脇に掛けられたスクールバッグの2つを手にし、駆け足で登校を始めた。
<あれ?>
<同じバッグが2つ?>
途中で島貫を発見すると、大きな声で呼び止めバッグの1つを手渡した。
「昨日、バッグ忘れて行ったぞ?」
「ああ、すまん。ま、どうせ無くても変わらんがな」
チャイムギリギリに教室へと滑り込み、ホームルームが始まる。
「進路希望調査の紙の期日が今日までです。提出して下さいね」
「あ、バッグの中に入れっぱか?」
島貫がバッグを漁ると進路希望調査表が2つ出て来た。
「おいおい、俺のバッグにお前の分も入ってるよ。お前もおっちょこちょいだなwww」
「あれ?すまん、俺はもう書いてあるから代わりに出しておいてくれよ」
「あいよ♪」
島貫は自分の進路希望に『ユーチューバァ』『ニート』『パチプロ』と書き込み、ヒロの分も合わせて提出した。
<なぁ、何か嫌な予感がするんだが……>
<奇遇だな。俺もだ……>
昼休み、ヒロは生徒指導室へと呼ばれる――――
「何かやらかしたのか?」
島貫の笑顔が眩しい。
「いや、全く記憶に無いんだが、担任のオバチャンから『大人をからかうんじゃありません!!』って怒られた…………」
「何だそれ?」
島貫は鼻で笑い飛ばした。
――――ピンポンパンポーン!
2年B組の島貫君。放課後進路指導室までお越し下さい。
ガチャ――――
「お前も呼ばれたな……」
島貫の顔を見るが心当たりが無いようで、首を傾げていた。
放課後、進路指導室から出て来た島貫は一枚のメモを手に少し震えた様子で言葉も少なく学校を後にした。その手にしたメモには住所の様な物が書かれているように見えた。
「悪い、先に大人になってくるよ」
その言葉だけがヒロの耳へと残っていた…………。
 




