島貫と歩美 欲望の果てに
夕焼けの公園に佇む歩美ちゃんは少し俯き、深淵の絶望をその身に宿したかのように禍々しい殺意をこちらへ忍ばせていた。家にも居なかった歩美ちゃんを探した果てがこの公園だった……。
「茜に何かしたのか……?」
俺は会話可能なギリギリの距離から話し掛ける。歩美ちゃんの顔をまともに見れば、たちどころに絶望の淵へと突き落とされるだろう……。
「貴方には関係ないわ」
その口振りから歩美ちゃんが生殺与奪権を握っていると思われる以上、あまり刺激すると茜の命が危ぶまれる。俺はなるべく落ち着いて説得を試みた。
「君はそれでいいのか?歩美ちゃんの愛と誠はどこにある?ヒロも悲しんで―――」
「見えないの!? この全身から溢れ出る先輩への愛の糸の数々が!! 貴方には見えないの!?」
こちらを睨みつける歩美ちゃんの目は、どうしようも無いくらいに純に澱んでいた。
「自己満足!? 身勝手!? 何だっていいわ! これが私の愛と誠よ!!それにアイツがどうなろうが―――」
そこで歩美ちゃんの口角が気味悪く持ち上がる。それは悪魔の顔だ。
「ははぁん……島貫先輩、もしかしてあの女の事…………」
止めろ
「ああいう女が好きだったのぉ?」
止めろ
「あの女が先輩に色目を使っている間、島貫先輩はあの女に欲情していたのね♪」
……………っ
「島貫先輩次第では助からない事は無いかもしれないわね?」
……!!
「でもダメ。あの女は許さない事に決めたの♡」
気が付けば、俺は泣きながら拳を振り上げ歩美の顔を思い切り殴りつけた!! 歩美は公園の砂場へ吹き飛ばされるが、直ぐさま起き上がった。
「―――っったいなぁ!
信じられない!! 島貫先輩って女性も平気で殴るんですね…………」
「茜を返せぇぇぇぇ!!」
先程まで愛だの誠だのとのたうち回っていた俺はもう居ない。自分でも信じられない程に自分の中に憎悪を抱えていた事に気付く。再び振り上げた拳を止める事は出来そうにない。
「あ~あ、面倒な人。でも、その想い嫌いじゃないですよ?」
歩美の顔にもう一発拳を振り下ろす!!歩美の顔が苦痛に歪む!
「………………」
歩美のスカートからスタンガンが!!
俺もポケットから黒ずんだ親指を取り出した!
―――バチン!!!!
脇腹に刺さるスタンガン。しかし俺はビクともしない……。
「――!?」
歩美は慌てた様子でスイッチを入れ直そうとする―――
ズボッ……
俺は取り出した親指を歩美の口へと押し込んだ。しかし、直ぐに歩美は吐き出してしまう。
「なに!?」
「ミートボールだ。さっき冷蔵庫から1つ失敬してきた」
歩美の膝が崩れ落ちる。
「……あれ?立てない?」
「俺がどれだけ茜の料理を食べてきたと思う?どれをどれだけ食べればどうなるか、もう全て熟知してるからな。悪いが暫く痺れててもらうぞ」
そのまま倒れた歩美の服を弄り、俺はお目当てのブツを探した。
「それらしいのは……これだけか」
俺は小さな色違いの錠剤が入った袋を歩美のスカートのポケットから取り出した。
「解毒はどの色だ?」
「知ら、ないわ…………知ってても教え……ないけどね」
赤、黄、青の三色か……。
「なら1つ歩美ちゃんに飲んでもらおうか。次は俺が飲む。それなら茜は必ず助かるな」
俺は黄色のカプセルを歩美ちゃんの口へと近づける。
「止めて!お願い何でもするから!!」
「じゃあ正解を教えて?」
「……………………青よ」
俺は青いカプセルを取り出し、歩美ちゃんの口へと入れた。
「えっ?」
まさか本当に口に入れられると思っていなかったのか、カプセルはいとも簡単に歩美ちゃんはの喉の奥へと入り込んだ。
――ガハッ!!ゲホッ!ゲホッ!
「大変!!飲んじゃった……わ!!」
ジタバタと蠢く歩美ちゃん。しかしミートボールの痺れで思うように動けない。
「その様子だと外れみたいだな。それじゃ俺行くから……」
俺は悶える歩美ちゃんに背を向け、急ぎヒロの家へと向かった。
「待って! お願い! 助けてよ!! ねぇ! ねぇーー!!」
もう俺の耳に届く声は無い―――
 




