ゆかりの胸中……初めての夜
ついに物語は混沌から終末へ―――!!
部屋のベッドに貴方をそっと置く。
<もう俺の役目は終わりだな>
――ヒロ君のお父さんには何とお礼を言って良いやら……。
<良いんだ。家族と幼馴染み達が狂っていくのが、天国で見てて辛かったからな……>
――ありがとうございます。
<さて、後は仕上げだ。言われた通り揃えたか?>
――ええ。清めた瓶と御札ね。
<じゃあヒロの胸に手を当てて悪霊達を追い出せば終わりだ。俺は天国へ帰るぜ>
――はい。
<あ、最後に一つアドバイスだ。>
――?
<ヒロのチ〇ンポは、デカイぞ?>
――そ、そうですか…………
<それじゃあ、うちの童貞野郎を宜しくな>
私の中から暖かい風が抜けるのを感じながら、私はベッドへと視線を落とした―――
―――気が付くと俺は、、、何故かゆかりの部屋に居た。静かに起き上がり辺りを見渡す。
「……ゆかり? 俺は何故……」
「気にしないで……」
<何処だココは!?>
<あーっ! 茜ちゃんも歩美も負けたのか……>
ココは全てがゆかり色で、ゆかりの愛おしい香りがする。俺の脳は感じたことの無い愉悦と幸福感で満たされており、同時に悍ましい獣が下から込み上げているのを感じていた。
目の前に立ったゆかり。静かに指が俺の肩から肘、そして指先へと這うようになぞられる。俺の脳から何か重大な機能が失われていく……。
「………………」
ゆかりは俺の胸に手を当てると、オッサン達の魂を取り出しガラス瓶へ押し込んだ。
<おっと!!>
<あわわわ!!>
(貴方の目の前には私が居るけれど、貴方の目には誰が映っているのかしら?)
俺の目にはゆかりが映っている。しかし、俺の頭の中には茜と歩美が僅かに浮かんでいた…………。
しかし、それもオッサン達が居なくなり、俺の理性を止める物はもう何も無い。俺の脳はゆっくりと、ゆかり色の足跡で埋め尽くされていく……。
ゆかりが何をして、どうしてオッサンを知っているのか知らないが、今は凄くどうでも良い……。
(もう邪魔は入らない。大事な人が堕ちる様をそこで見ているがいいわ!!)
ブラウスのボタンを2つ外し、きめの細かい柔肌と魅力的な双子を見せつけるゆかり。俺は固まったかの様に視線がそこから動かせない。
ゆかりの湿っぽい吐息が俺の耳にそっと触れた。
「ね、優しく…………でも激しく愛して欲しいな……♡」
―――ブチィィン……
俺の中で何かが完全に弾ける音がした。
俺の中でいつぞやの鎧武者キューピットがGOサインを出している。
必至で積み上げた積み木を蹴り飛ばすように、車で壁を突き破るように……俺はそれまでの事を一切忘れ、がむしゃらにゆかりを貪った!!
<ヒロ君!! ヒロ君!!>
<……くっそぉ!俺たちの存在が徒となったか!!>
素敵なラッピングをぶち破る様にゆかりの身包みを剥ぎ取り、中身の愛おしいプレゼントを荒々しく求め、楽しみ、脳が焼き切れるほどの本能に身を委ねた…………。
(私の勝ちね……)
私はわざと聞こえるように、そしてこの人の箍を壊すように、艶のある声で大きく喘いでみせた。
(がっついちゃって…………ま、童貞だから仕方ないか。にしても、本当に大きいわね……で何でこんなに折れ曲がってるのかしら?)
「ゆかり!!ゆかり!!」
その夜、俺の翼の折れたエンジェルは壊れるように深夜残業をした。ゆかりとの一夜は例えようの無い程に俺をおかしくし、まるで禁断の楽園とやらを彷彿とさせた…………。
『ゆかり!!ゆかり!!』
……私は静かにイヤホンを外した。これ以上聞いていたら危うく自殺してしまうかもしれないからだ。
ヒロは今きっと、幸せの海を泳いでいるのだろう……。
ヒロが幸せなら……それで良いんだろう、父さん?
私は濡れたハンドルを握り締め、一人寂しく家へと向かった。
 




