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ねじ曲げられた現実

「歩美ちゃん……!! 先輩に譲るのが筋じゃ無いかしら?」

「嫌ですよ! 年下には優しくしなさいって誰かに言われませんでしたか!?」


 純粋な力勝負で勝てない私は、ポケットから秘密道具を取り出した。

「何それ……? 羽の付いた注射器?」

「…………」

 それと、長く細い筒を取り出し注射器を筒へと入れる。



  ―――プッ!!


「ぎゃっ!!」


 吹き矢の要領で発射された注射器が茜さんの胸に突き刺さった! ゴムのストッパーが外れ、針の側面に開けられた穴から薬剤が茜さんの体内へと流れ込む!!


「―――ふんっ!」


 茜さんは注射器を引き抜き投げ捨て、そして覚悟を決めた目で私を睨みつけた……。


「何をしたか知らないけど、薬が効くまでに歩美ちゃんを殺せば良いだけ…………」


 キレた茜さん……いや、茜が鉈を―――投げた!!


 私は咄嗟に屈む! 鉈が壁に刺さる音が響く!

 前を向いた途端に視界を覆い尽くす茜の足!!

 私は顔に蹴りを貰い吹き飛ばされた!


 激しい痛みが全身を駆け抜けるが、呆けている暇は無い!

 鉈が壁から引き抜かれる音がしたからだ!


「死に晒せーー!!」


 両手で鉈を振り上げた全裸のクレイジー痴女。

 しかし、その直後にビクリと一度大きく痙攣すると、動かなくなってしまった。


 ……

 …………

 ………………バタン!


 虚ろな目で固まった茜は、そのまま後ろへとゆっくりと倒れた……。


「割と即効性の高い薬なんだけどなぁ…………流石ゴリラ」


 私は茜の足を軽く小突き、確実に意識が無いことを確認した。


「おやすみなさい……永遠にね♡」


 私は攫われた先輩を追うことにした。

 早くしなければ……何かとても嫌な予感がする。先輩を拉致したのはお姉さんだろう。もう誰も手段を選ばなくなってきている。もう猶予は無い、先輩と既成事実を作った人が勝ちだ!!

 私は先輩の家へ全力で向かった―――




  ―――助手席に座るヒロの寝顔を拝みながら、私は愛車をかっ飛ばしていた。目指すは自宅、そうそこで私達は結ばれるのだ!


「―――ん?」


 道路の真ん中に女が一人立っている。泥棒猫(ゆかり)だ!

 今更ノコノコと……このまま轢き殺してくれるわ!!


  ブウゥゥゥゥゥンンンン!!!!


  キキーーーーー!!!!


 ―――野郎……轢かれるかもしれないのに微動だにしなかったぞ!?


「テメエ! どきやがれ!」


 言葉遣いの乱れも今は気にならない。何故ならコイツが最後の障害だ。パワーウィンドウを開け、私は般若の表情をするも、泥棒猫(ゆかり)は臆すること無く私に近付いた。


  バンッ!!!!


 叩かれる窓ガラス……泥棒猫(ゆかり)の表情は何故か()()の顔だ…………。


「―――靖子ねえちゃん」


「―――!?」


「……もう大丈夫。ヒロは十分立派に育った。だから…………今までありがとうな?」


「―――と、父さん……?」


 泥棒猫(ゆかり)から発せられたのは、今は亡き父と私との最後の約束。


「ヒロを頼む……ぞ」


 その言葉通り今まで大事に見守ってきた…………。何故コイツがその事を……?


「―――お前は人一倍責任感が強い。もう良いんだ、後はヒロの好きにさせてやれ。それがお前の為にもなる……」


 ―――父さん…………


 何故かコイツから父の面影がする……。

 憎たらしいコイツから放たれる優しい感じは正しく私だけが知っている父のオーラだ!


 いつの間にか、私の目からは自然に涙があふれていた―――


 私は、そのまま泣き崩れた。そしてヒロはゆかりが持っていった―――

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