重要ミッション:ゆかりを誕生日デートへ誘え!
『ヤンデレとは、己の愛を貫く狂戦士である』
by ヤン・デレン
俺は久々に秘密の中庭へ来ていた。
秋の気配が強まりトンボが沢山飛んでいた。ススキも良い感じで育っており、十五夜の月見には見応えのある物になるだろう。俺は団子にしか興味無いけどね。一年通して花より団子だ。
「久し振り……だね」
その声は俺の渇いた心に染み渡り、恵みの雨の様な暖かさで俺を包み込んだ。カサカサに乾いた大地に染み込むゆかりの言葉が、俺に笑顔を取り戻させてくれる。
「……久し振り」
俺は柔やかな笑顔でゆかりが迎え入れてくれた事に安堵した。正直嫌われていないか心配で心配で夜も8時間しか寝れていない日々が続いていたのだ。
すぐに俺達はいつもの感じに戻れた。
「昨日の映画観た?」
「ええ。『女コマンドーの華麗なる事件簿3』とても面白かったね♪」
「女コマンドーが女刑事に襲われて、女ナースが女メキシカンだったシーンが最高だったよ!」
久し振りの至福の時間はあっという間に終わりを迎え、予が予鈴鳴り響く中、俺は意を決してゆかりをデートへと誘う。
「ら、ららら……」
「ラララ?」
ダメだ、またデートに誘うとなると緊張して言葉が出ない……が! 言うぞ!!
<ヒロ君ファイト!>
<勇気を出せ! 当たって砕けて死ね!>
「ら……来週出掛け……ませんか?」
俺は何とか伝えることが出来た。
「ええ! 嬉しいわ! ありがとう。楽しみにしてるね♪」
詳細な段取りを伝えきれぬまま、ゆかりは校舎の中へと走って行ってしまった。本鈴を告げる音が聞こえ、まるで俺を祝福してくれているみたいだ。……さて、サボってデートプランでも考えるか!
俺はひんやりとしたコンクリートにもたれ掛かり、ショボい脳ミソで必死にデートプランを組み立てる。
買い物デート
↓
ご飯食べる
↓
告白する
↓
ゴール
か、完璧だ……!!
恐らくこれ以上のデートプランは金輪際出てこないだろう。
<待てヒロ君! 何だその雑なプランは!>
<止めるな止めるな! フラれた方が都合が良いだろ!>
何か聞こえたが、放っておこう。今の俺を止めることが出来るのは俺だけだ(キリッ)
「おお、ヒロよ!」
「何だ何だ?どこぞの王様みたいな言い方は」
放課後、島貫と茜の3人で帰っていると突然島貫が気持ち悪い笑顔で語り出した。
「実はな。買ったんだ!」
「な!! 島貫よ売春は良くないぞ! 相手は何歳だ!? 3歳か!?」
「やめい! 俺を異常者扱いするな!」
「うむ。早く良いたまえ。さもないとあそこの家の原付バイクを取り飛ばすぞ」
俺は『島貫』の表札が書かれた家の玄関先に置かれた新しい原付バイクを指差した。
「お前知ってて言ってるだろ!! そうだよ! 原付買ったんだよ!!」
島貫が慌てた様子で俺と原付バイクの間に割り込んだ。
「へぇ~! 島貫君免許取ってたんだ! すごーい!」
茜が目を輝かせている。今にも『乗せてくれ』と言わんばかりだ。とても危険な匂いがする。
「夏休みのバイト代で買ったんだぜ?」
意気揚々と島貫が原付バイクに跨がる。
「凄い! 後ろに乗せて!?」
茜がひょいと後ろに跨がった。
―――むにむに
「!!」
島貫は驚き慌てふためいている。
「島貫よ、俺はお前が考えている事が手に取るように分かるぞ」
島貫の顔が見る見る赤くなり、今にも湯気が立ちそうだ。島貫はムッツリスケベだった。
「島貫君走らせてよ~!」
「茜。その原付は二人乗りは―――」
「島貫! 行きまーす!!」
シリンダーを回し愛車を噴かす島貫。奴の心は今ガンダーラへと行ってしまった。幸せそうな島貫の顔。やっぱりアイツはムッツリだな。
「あ、今日は早く帰らないとダメだったんだ」
なんと、原付が走り出した直後に茜がひょいと降りてしまった。
「じゃーね!」
「え!? 茜!? 茜!?」
現実へ強制送還された島貫は茜の方を振り向き、寂しそうな顔をした。俺は島貫のこの顔を一生忘れないだろう。それ位島貫は寂しそうな顔をしていた。
「あ、バカ前を―――」
ガシャーン!!!!
勢い良く壁に突っ込んだ島貫。原付は見るも無惨なボロボロになり、島貫は倒れたまま動かない。
「生きてるかー?」
俺が駆け寄ると、島貫は放心していた……。
「今考えている事、当ててやろうか?」
島貫の目だけが動き、俺を見た。
「原付と引き換えでも悪くは無い……だろ?」
「……俺は初めてお前が憎いとおもったよwww」
そして島貫は近所の通報で点数から違反金やら修理費やらと大変な事になっていた。哀れ島貫……。
 




