姉の意地
『今日はお母さんが早く帰ってきてくれるから先輩も一緒にご飯どう?って言ってましたよ?』
『先輩先に荷物をお願いします。私はトイレに……』
『……ズ……ズズ…………』
『あ、お母さんお帰りなさい』
『ヒロ君いつもありがとうね。今日は私が作るからヒロ君も食べていってね』
『すみません……』
『ご馳走さまでした……。では俺はこれで…………』
『え~もう帰るんですか?』
『こら歩美。いつもお世話になっているんだからあまり引き留めないの!』
『じゃあ、先輩また明日お願いします』
『バリィン!!!!』
『どうしたの!?』
『先輩!?』
『すみません!! 下駄箱の上の壺に手を引っかけてしまいました!!』
『……え!? これ300万もする壺よ!!』
『えっそうなの~!!』
『…………え?』
『どうするのコレ!!困るわよ!!』
『え!?あ、あの……その……すみません!!』
『謝って済む訳ないじゃ無い!! 今すぐ弁償するか家で住み込みの家政婦として働いて返すか決めなさい!!』
『えっ!? ええっ!?』
―――私は近くに止めていた車から降りると、イヤホンを外し颯爽と玄関を開けた!
「テテーン!……姉、参上!」
突然の乱入に一同は唖然としていた。ヒロは涙目で今にも泣きそうだ。可哀相に……今すぐ姉ちゃんが助けてやるからな!
「どちら様で?」
醜悪クソビッチババァの顔に怒りマークが見える。
「お客様だぞ? 茶は要らねぇけど笑顔は見せろよ」
私はポケットから紙を取り出しスラスラと書き込んだ。
「ほら、これで文句は無いだろ?治療費も入ってるぞ」
私は五百万と金額が書かれた小切手を、荒々しく手渡した。
「えっ!?」
クソビッチが大層驚いている。小切手なんて見るのは初めてだろうからな! まぁ、私も書いたのは初めてだがな!!
「だ、ダメよ!」
「私は母親に聞いているんだ!!」
「あ、う…………」
暫くの沈黙の後、母親が重い口を開いた。
「ええ……問題ありませんわ…………」
「………………」
静かに怒りを露わにする2人を差し置き、私はヒロの肩を叩いた。
「帰ろうか、ヒロ」
「ね、姉ちゃん……!!」
私は泣きじゃくるヒロを車へ載せ、そのままホテルに……向かえば良かったなぁ……。普通に家に帰っちゃったからなぁ……。惜しいことしたな!
「姉ちゃん、ありがとう。俺必ず働いて返すから!」
「いや、良いんだ。気にするな」
その日、久し振りにヒロの笑顔を見た―――。
やっぱりヒロは元気な方が良いな!
姉ちゃんとしてもそっちも方が嬉しいぜ♪
「ヒロ! このまま少しだけドライブしようか!」
「―――何だか久し振りだな。姉ちゃんの運転」
私達は夜風を身に纏いながら颯爽と夜の街を駆け抜けた。




