俺とゆかりの初デート!緊張で今すぐにでも死んでしまいそうです!!
ゲームにおいて、選ばれなかったヒロイン達がその後どのような人生を歩むのか、たまに気になります……。
俺は予定時刻より1時間も前に来ていた。当然ゆかりはまだ来ていない。
『ごめんなさい。少し遅れます』
集合時刻の15分前にゆかりからメールが届く。
俺は近くのコンビニに入り普段なら絶対読まない占いの本を読み始めた……。
『B型の貴方は今日は最悪!ハゲるわ死ぬわフラれるわ借金するわで人生最悪の日!?』
俺は二度と占いなんかに頼るかと誓い、本を戻しスマホの時間を確かめた。
「よし、そろそろ行くか……」
時刻は10時を示していた。さて、今日は俺の終着駅でもあり出発点でもある。覚悟を決めてゆかりに告白をするぞ!!
「御免なさい!!」
慌てて走るゆかりに俺は笑顔で手を振った。
「大丈夫、俺も今来た所だから」
「御免なさい。今日着ていく服や髪型を考えていたら遅くなっちゃって!」
女の子が自分の為にオシャレをしてくれる。これ程嬉しいことがあるだろうか!?いや、無い!!
俺は跳ね上がる鼓動と暴走天使マラチオンを落ち着かせ、早速水族館へと向かった。
…………スゲェ混み具合。やべ、場所間違ったか?
リニューアルオープン初日の水族館は、夏休みとあってか子ども連れで都会の満員電車の如く賑わっていた。
「凄い人気ですね?」
「そ、そうだねぇ~」
俺は内心焦りを感じていた。これはデートとして成立するだろうか? ポケットの中ですっかり汗ばんだ前売り券(10%off)を2つ取り出し、ゆかりへ1つ差し出した。
「前もって買っておいたよ。どうぞ?」
「あ、ありがとうございます。お金を……」
「ああ、大丈夫。今日は俺が誘ったんだから……」
「え!?良いんですか?ありがとうございます!」
ゆかりの嬉しそうな笑顔を見ると、熱い中働いた甲斐があると言う物だ……。
<へへっ、ヒロ君男らしくなってきたじゃねえか!>
<言ってる台詞殆どスマホで調べたんだけどな!!>
俺達は早速逸る心で水族館の中へと進んだ…………。
―――二人の後ろを追いていく私は、やり場の無い怒りと憤りを感じていた。
お姉さんの盗聴器は、この人混みではまともに機能していないだろう。二人が何を話しているのかは分からないが、良い雰囲気なのは確かだ。殺してやりたい。
先輩の心を振り向かせる手段が浮かばないまま今に至る私に残された道は、偶然を装いデートをぶち壊す事しか無い。
茜さんは使い物にならないし、お姉さんは仕事中。あの二人は本当に先輩を心から愛しているのだろうか?やはり先輩には私しか居ない…………。
道を塞ぐ子どもを睨みつけ、泳ぐ魚もそこそこに私は二人の様子を観察し続けた。優雅に泳ぐ魚の姿なんか私の目に止まることは無い。
どれもこれも水槽の狭い世界でしか生きられない可哀相な奴等ばかり。私は先輩と煌めく愛の大海原を手を取り合って進むの。きっと素敵な事になるでしょうね♪
その為にも何とかしてあの女を排除しなければ……。どういう手口で先輩の心を蝕んだのか知らないけれど、私の先輩に手を出したことを後悔させてやるわ―――。
 




