ビーチに漂う奇策 ~歩美と姉~
多くのヒロインが登場する所謂ハーレム物で、明らかに「あ、この子との絡みは少なさそうだな」ってキャラが登場すると、応援したくなります……。
「ヒロならバイトに行ってるよ」
開口一番にお姉さんの明らかな拒絶が窺えた。顔では歓迎の笑顔だが、声が私の全てを嫌っている感じである。恐らく前回の侵入もバレているだろう……。
「いえ、今日はお姉さんにお話しが……」
私も精一杯の笑顔で応戦した。
「……どうぞ」
お姉さんは静かに私を迎え入れてくれた。
話を聞く気があると言う事は、多少自分が不利であると感じている証拠だろう。恐らくは迎え入れたくは無いはずなのだから……。
「それで、どうしたのかな?」
自室へ迎え入れてくれたお姉さんは明るく努めてはいるが、内心腸が煮えくりかえる想いだろうと推測した。
「率直に申し上げますと、先輩に悪い虫が着いています」
「……何のことだい?」
お姉さんは笑顔を崩さず私に問い掛けた。
「惚けなくても良いんですよ?先輩を誑かす悪い女……二条ゆかりの事ですよ」
私の声が低くなると、お姉さんの表情も幾分か険しくなる。
「悪い虫……ねぇ」
「先輩があの女ともし付き合う事になれば……恐らく先輩は卒業後には家を出て行くでしょうね」
私は目の前に居る醜悪な姉が嫌がりそうな事を投げかけてみる。単純な人だからきっと釣れるだろう……。
「な!!」
ほら釣れた♪
「今のうちに排除しないと……大変な事になりますよ?」
畳み掛ける私の言葉にお姉さんの表情が強張っていく。
「……何が狙いなんだ?」
「私はただ、先輩の隣りに居たいだけなんですよ♡」
―――さて、この女に渡したいなり寿司には強力な下剤が入っている。
一口食べれば忽ちトイレと仲良しさんだ。
「うん、歩美のお稲荷さんも美味しいな!」
ほら、先輩も喜んでる♪
さあ、貴女も早く食べてよ……?
―――バンッ!
軽快な爆発音にその場に居た全員が音のした方を向く。
そこには転んでビーチボールを割ってしまった子どもが居た……。
「歩美ちゃん、頂きますね?」
「どうぞどうぞ」
ようやく口にしたいなり寿司。後は無様にトイレへ駆け込むだけ……。だけど入れないよ? 出店のかき氷屋のイチゴシロップにも軽めの下剤を入れたから、今ごろトイレは満員御礼千客万来かな♪
「……うっ!!」
キタ♡
「……すまんヒロ、急に腹が…………」
「島貫君大丈夫?私のお弁当のせいじゃ……」
なん……だと!?
おかしい、確かにこの女に手渡した筈! 目印に紅生姜の色を少し付けたから間違え様が……
まさか……さっきすり替えたと言うの!?
いや、まさか大人しそうなこの女がそこまで…………。
どちらにせよ島貫先輩はもう戻れない。色々な意味で。
「トイレ!行列!ヤバい!漏れる!」
「おい!島貫何処に行く!?そっちは海だぞ!」
「俺達の母なる海に還しても問題は在るまい!?」
「何だと!?そんなことをすれば海が汚染されるぞ!!」
「チクショーーー!!」
島貫は必死でケツを押さえ、遠くへ……遠くへと消えていった。グッパイ島貫……。
昼食後、私は「少し休む」と伝え荷物番をした。
バッグからイヤホンを伸ばし、再生ボタンを押す。
『来週……水族館がリニューアルで……その…………一緒に行きませんか!?』
お姉さんが貸してくれた高性能の小型レコーダー。利害関係が一致したと思い易々と手の内を見せるとは至極単純な人……。掌で操るのも案外楽そうだ。
さて、来週に水族館とは……。今まで異性に奥手だった先輩が積極的アプローチを仕掛けている。その相手が私じゃ無いのがとても歯痒い……。
2人の関係をぶち壊して先輩を奪う。
……なるべく私の手を汚さずにね。
さて……どうしてくれようか?




