3月末のある日に平然と不法侵入してくる幼馴染み
――俺の中には謎のオヤジが2人居る
<娘がね、墓前で『好きな人が出来たの』って言うのよ。だからどんな奴か確かめに来たついでに、娘の恋の成就を手伝ってやろう!それが親心だろ!?>
<分かる!分かるよ!!>
オッサン2人が汚い涙を浮かべながら、俺の中で頷き合っている。非常に迷惑だ……。
「で、俺の意思は……?」
<すまんな!一度入ったら成仏するまで出れねぇのよ!>
<大丈夫だヒロ君よ!どっちかとくっついたら成仏するからよ!>
ガハハと豪快な笑いと共に一升瓶を煽るオヤジ達。
「で、そのちゃぶ台とかテレビとか、酒はどこから?」
霊の癖に俺の中でドンチャン騒ぎに興じるオッサン2人。そろそろ理解不能で倒れそうだ。
<え、これ? 極楽ネットだよ!天国とやらで霊体で作られてるから体に入れても安全安心よ~!>
<俺達テレビ画面越しに見てるからよ、安心してイチャイチャしてくれよな!>
んん~、どこから突っ込んでいいか分からんが、とりあえず落ち着こう。ああ、落ち着こう……。
学生の貴重な春休み。それが終われば新学期、高校2年の幕開けだが…………正直気が重い。
「ヒロくーん!いる~~!」
突如激しい16連打でインターフォンが押された。
ほれ、元凶その①が来た……。面倒だ、居留守を使おう。
<おいおいヒロ君よ!俺の愛娘の茜が来たってのに無視かよ!そりゃ無いぜ!!>
「いや、出ても出なくても一緒だよ……」
インターフォンの嵐が収まると、今度はカチャカチャと音が聞こえ始め、ものの15秒程でドアが開く音がした。
「ふふ、ヒロ君カギ開けちゃったよ~。もう100回以上開けてるから慣れたもんだよね~」
幼馴染みの茜が我が物顔で俺の家へと不法侵入し、階段を上り一目散に俺の部屋へと突き進む!
「な?」
<ヒュー!流石茜だ!我が娘ながら鮮やかな手つきだぜ……>
バーン!と激しく俺の部屋のドアが開く。
「ヒロ君めっけ♪」
茜の眩しい笑顔には一点の迷いも無い。手には小さな工具箱が握られており、とてもモザイク無しではお見せできない品物が多数入っていた。
「茜よ、今日は何をしに来たんだ?」
俺は努めて冷静に問う。
「ヒロ君に会いに来たよ♡」
首を傾け再び笑顔を向ける茜。
「よし、目的は果たしたな。帰れ!」
「ええー!!」
俺は茜の背中を容赦無く押し――――
!!
俺は慌てて茜の背中から手を離した。茜の背中にはシャツ以外の服の跡が無いのだ……
「へへ、気付いた?」
八重歯を見せる茜の悪魔的な微笑みが俺の脳に深刻なダメージを与えようとしていた。
コイツ……ノーブラだ!!
「へへ、ヒロ君がその気になっても良いように……ん?その気になるように、かな? 着けてないよ?」
茜は振り返り少し屈むと、シャツの襟元を浮かせ胸元をチラ見せしてきた……。
<はい、ここからの実況は私、歩美の父と解説は茜ちゃんのお父さんでお送り致します! さあ、早速ですが茜ちゃんのアピールはもはや理解不能ですね。押し売りがハンパないです>
<え~、その辺りは母親に似たのでしょう。私の時もそうでした>
オヤジ2人の実況解説を無視し(と言うかそれどころでは無い)俺はあまりの刺激の強さに脳がショート寸前だ。間違いない、今まで敢えて言わなかったが、茜は狂っている!!
「ヒロ君なら、服の上から舐めても良いよ♡」
だめだ、もはや手が着けられない!発情期を迎えた猫の如くフェロモンをぶっ放す茜、そのダイナマイトボディで俺のエベレストは最年少登頂記録を更新し、理性の壁はいとも容易く破壊されてしまいそうだ!!
<さあ!ヒロ選手どうでるのでしょうか!?ヒロ君のヒロ君は素直に喜んでおられます!!>
<これで冷静に居られたら男色家間違い無しだぞ!>
………………ダッ!
<あーーっと!!何とヒロ選手自分の家から逃げ出しました!!>
<カーーーッ!!クソヘタレウンコクソザコウンコ野郎!!>
オヤジ達の罵声を浴びながら、俺は太陽に向かって走り続けた……。