姉ちゃんのカレーを食べるためなら何だってする!!
『この体に刻まれた傷痕こそが彼女からの愛の証である』
by スケベビッチ・ヤンデレーナ
「ただいま~」
「姉ちゃんカレー作ってくれ!!」
案の定ヒロは、私のカレーが無いと落ち着かない様子で台所の周りをグルグルと回り苛立っていた。
「……ごめんな。今日は疲れてるから明日じゃダメかい?」
無論嘘だ。ここで引き下がられては困る。
「えーっ!!」
ああ…………実にいい顔をするなぁ……。
「でも、ヒロが肩を揉んでくれたら姉ちゃん頑張ろうかな?」
私はニヤけそうな顔を抑えてヒロに交渉を持ちかけた。勿論今のヒロなら余裕でこなすだろう。
「オーケー!」
ヒロは私の後ろへ回り込み、肩を揉み始めた……。
「嗚呼……最高だ。巧いぞヒロ…………」
私は最高に愛おしい気分へと登っていた。しかし、これはまだ序章に過ぎない。
「今度は脇の下も頼む。リンパを流して血行を促してくれ」
私は両手を挙げてヒロを迎え入れる態勢を取る。
「オーケー!」
ヒロの手が私の脇の下を優しく揺らす。時折ヒロの指先が私の胸に当たり、まるで後ろから揉まれているかの様だ…………。へへへ、神様ありがとう!
「どれ、それじゃあカレーを作ろうかな……」
私は今にも溢れ出しそうな鼻血を抑え、台所へと向かった。
「ヒャッホー!カレー!カレー!」
ヒロのテンションは最高潮だ。
だが、今日のカレーにはアレは入れない。
カレーで満足されては困るからな…………。
ヒロには姉ちゃんと大人の階段を登って貰わないとな。
「姉ちゃん……カレー……」
次の日、俺は全てに対して無気力になっていた。
「おいおい、遂にヒロがおかしくなったぞ?」
「ヒロくーん?」
茜が揺さぶるも俺の目は虚ろなままだ。
「ずっとカレーって言ってますけど…………」
歩美が俺の口に卵焼きを入れるも、力無く開いた口から直ぐに落ちてしまった。
「……茜さん。今日の午後早退して先輩の家へ行きましょう」
「え?何するの?」
「恐らく茜さんの力を借りることになるかと……」
午後のチャイムが鳴り響く学び舎を抜け出し、私と茜さんは先輩の家へと向かった。
「昼間はお母さん居ないそうなので、遠慮無く入りましょう」
「歩美ちゃんも中々に悪よのぅ……」
茜さんはニヤニヤと微笑みながら、不気味な工具で巧みに玄関の鍵を開けた。
私達はまず台所へと向かい、冷蔵庫にあったカレーを少し頂戴した。
「普通のカレーっぽいね」
「…………」
次に向かうが本命。お姉さんの部屋だ。
「2分以内に終わらせて下さい。それ以上は危険です。部屋に入ったら茜さんは写真を撮りまくって下さい。私が探索します」
「オーケー♪」
茜さんが嫌らしい手つきで扉の鍵を容易く開けてしまう。この人は泥棒が天職なのではないだろうか?
「……行きます」
私はドアノブに手を掛け中へと突入した!
机にパソコン、そしてベッド。それだけの簡素な部屋。想定より遙かに柔らかいイメージに、私の脳は少しぐらついていた。果たして本当にお姉さんが犯人なのだろうか?
「とりあえず、探しましょう」
「へ?何を?」
「先輩を変えた何かの手掛かりをですよ!」
私は机の引き出しを次々に開けた。
「……無い」
その間に茜さんはスマホで写真を撮る。元に戻す際に分からなくならない様にだ。
「……ここも無い」
出て来るのは至って普通の生活用品ばかりだ。まずい、長居は危ない気がする……。もしバレたらこの家に来れなくなる。
「歩美ちゃん、大丈夫?」
慌てた様子の私を見て、茜さんが声を掛けてくれた。呑気な人だ―――
「茜さん?」
「ふえ?」
「もしこの部屋にエログッズを隠すとしたら、どこに隠しますか?」
茜さんの目が仕事人の目へと変わる。冷静に部屋を分析し、観察する。
「ここかな」
茜さんは私が散々調べた引き出しを1つ抜き……持ち上げて裏を見た。
そこには小さな袋に入った見たことの無い植物が入っていた。
「何これ?」
期待のエログッズでなかったらしく落胆する茜さん。
「いや、これですよきっと…………」
私はその袋を手荒く引き剥がすと、引き出しを元に戻させ部屋を後にする。
「鍵も閉めたよ」
指で輪を作り満面の笑みの茜さん。この人は変なところで役に立つ人だ……。
「カレー……」
私達はまるで屍の如く生気が感じられない放課後の先輩を掴まえ、茜さんの家へと連れ込んだ。




