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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
新たな装い ──保元三年(1158)睦月

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二話




 数日後。

 父上がお客様をお招きになった。


 藤原信頼と仰るこの方は、〝信西殿の政敵〟と言われている。──正しくは、〝信西殿が一方的に政敵と見なしている〟だが。

 今上帝の近侍のお一人で、天養元年(1144)に従五位下を賜ってから今日まで、順調に官位を上られている。


 信頼様は、今年の春の除目にて、正四位上・皇后宮権亮(ごんのすけ)に任命された。それから間もなく従三位を賜り、来月初頭の宮司除目(ぐうじじょもく)にて、正三位・参議に任命されるのと同時に、公卿へ名を連ねられる。


 一月ほどの間に、恐ろしいほどの速さで出世街道を駆けていらっしゃるが、信頼様ご自身にそれほどの野心があるわけではないようだ。

 となれば、公卿のお家柄と、ご自身の有能さの賜物だろう。


「こうしてお目にかかるのは、初めてですね」

「はい。よろしくお願い申し上げます」


 父上にご紹介頂き、信頼様からお声を掛けて頂いて、こちらもご挨拶申し上げたのだが。


(……実に、爽やかな方だ)


 26歳の信頼様は、前世なら間違いなく清涼飲料水のCMに抜擢されていたであろうほど、清涼感がある。

 笑いかけてくださるそのご様子に、格下の子どもへの侮りは見受けられない。


「『遷御の儀』の童舞は、実に見事でしたよ」

「恐縮に存じます」


 さらに、お声が良い。

 爽やかさに大人の色気が内包された、耳に心地よいお声をなさっている。

 将来性のある好青年……なるほど。女性方が虜になるのも頷ける。

 さらに、今上帝の御心も捉えたと。


 ──どうやら、「今上帝が近侍にお選びになったのは声の良い者ばかり」という噂は、まことのようだ。むろん、仕事ができることが前提だが。


(……そう言われれば、信西殿も声は良いのだがな……)


 底意地の悪さが前面に出なければ、渋く張りのある声である。


 おそらく、信西殿は焦っているのだろう。

 側近の筆頭という地位にはいるが、41歳。若いうちから重用されている信頼様に、その地位をいつ追われるか、気が気ではないはずだ。

 今の朝廷は、信西殿にとって良い風向きとは言えぬゆえ、なおのこと。


 ──ともかく、今、宮中で一番の出世頭と称される信頼様を、我が家にお招きできるだけでもすごいことなのだが……


「鬼武者殿のように、聡慧な方の烏帽子親(えぼしおや)となれるとは、光栄です」


 信頼様の仰るとおり、此度の元服において、仮親として烏帽子を被せるお役目を引き受けてくださったのだ。

 私の元服名〝頼朝〟は、信頼様より〝頼〟を、父上のお名前〝義朝〟より〝朝〟を頂戴したものであると、この時初めて知った。


 いかなる伝手(つて)を辿れば、このような大物とご縁ができるのだろうか……


「お隣のよしみですよ」


 にっこりとお笑いになる信頼様。

 ……あからさまな視線だっただろうか。


「不躾にございました。申し訳ございませぬ」

「いいえ。知ることは、大事ですからね」


 師のように、温かな眼差しを向けてくださる信頼様。

 どうやら、信頼様が国司として任命されている武蔵国(むさしのくに)と、父上が任命されている下野国(しもつけのくに)が隣接しているらしい。


 ……ずいぶんと、規模の大きな〝お隣〟のお話だった。


春の除目:毎年、1月11~13日の夜行われる、諸官職を任命するための審議・評定の儀式。

宮司除目:立后など、皇后、中宮に関する官人を任命する儀式。

武蔵国:現在の東京都・埼玉県・神奈川県の一部。



お読みいただき、ありがとうございます。

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