一話
新たな年を迎え、私は12歳となった。
元服の儀を控えたある日、父上から拝聴したお話に驚愕する。
「…………まことにございますか……」
「戯言ではないぞ」
思わず聞き返してしまったが、父上の目は穏やかながら真剣だった。
「……皇后宮……」
口にしたその言葉の重みに、夢ではないと実感する。
しかも、権少進という官職まで賜ってしまった。
2月3日に立后なさる、統子内親王殿下に合わせての任官だそうだ。
確かに、〝五位に座する者の嫡男〟とすれば、妥当な官職である。よって、側室の子である義兄上たちでなく、私が賜ったのだろう。
此度の任官は、保元の乱に関する褒章がいまだに続いているのか、別の思惑があるのか……
まさか、私の将来性を見込んで……はないな。童殿上の際に、特に秀でたことをしたわけではないゆえ。
「そなたの心情は理解できるが……」
考えこむ私に、父上が静かにお声がけくださった。
「そなたが思い悩むことはない」
「……はい……」
……わかってはいるのだ。父上がお話しくださった時点で、すでに決定事項だということは。しかし……
客観的な私の立場でなく、私自身の思いを申し上げるとするならば、「義兄上たちを差し置いて出世してしまう」という申し訳なさにつきる。
いくら私が正室の長男であるとはいえ、実質は三男だ。家長の器ではない私が、義兄上たちより先に官職を賜ることには抵抗がある。
返答申し上げたが、得心しておらぬのを見抜かれたらしい。
父上が苦笑なさった。
「もしも義平ならば、『文官は向かぬ』と申すだろう。朝長は引き続き中宮職に勤めるゆえ、いずれにせよ、皇后宮へはそなたが参ることとなっておったのだ」
「……承知致しました」
義兄上たちにわだかまりがないのなら、私も得心できよう。
「鬼武者」
今度は母上から、穏やかに呼びかけられた。
「わたくしは正室として、此度のそなたの任官を喜ばしく思います」
母上のお言葉に、私はハッとした。
……そうだ。母上は〝正室〟として、嫡男を生むという責務を命懸けでなさった。
私は自分のことばかりで、母上のお立場を慮ることを忘れていたのだ。
「……申し訳ございません、母上……」
頭を下げた私に、母上は柔らかくお笑いになった。
「異母兄弟でありながら、仲がよろしいのですもの。そなたが思いを巡らせるのもわかります」
母上の優しいお声が、そっと耳に入ってくる。
「正室としては言うまでもありませんが、そなたの母として、我が子の出世を嬉しく思います」
「母上……」
顔を上げると、母上はお声の通りに優しく笑っていらした。
……ならば、私にできることは……
私は、お二方に向かって拝礼する。
「……精一杯、務めて参ります」
今の心のすべてで、決意を申し上げた。
お読みいただき、ありがとうございます。





