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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
新たな装い ──保元三年(1158)睦月

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一話




 新たな年を迎え、私は12歳となった。

 元服の儀を控えたある日、父上から拝聴したお話に驚愕する。


「…………まことにございますか……」

戯言(ざれごと)ではないぞ」


 思わず聞き返してしまったが、父上の目は穏やかながら真剣だった。


「……皇后宮(こうごうぐう)……」


 口にしたその言葉の重みに、夢ではないと実感する。

 しかも、権少進(ごんのしょうしん)という官職まで賜ってしまった。

 2月3日に立后なさる、統子(むねこ)内親王殿下に合わせての任官だそうだ。


 確かに、〝五位に座する者の嫡男〟とすれば、妥当な官職である。よって、側室の子である義兄上たちでなく、私が賜ったのだろう。


 此度の任官は、保元の乱に関する褒章がいまだに続いているのか、別の思惑があるのか……

 まさか、私の将来性を見込んで……はないな。童殿上の際に、特に秀でたことをしたわけではないゆえ。


「そなたの心情は理解できるが……」


 考えこむ私に、父上が静かにお声がけくださった。


「そなたが思い悩むことはない」

「……はい……」


 ……わかってはいるのだ。父上がお話しくださった時点で、すでに決定事項だということは。しかし……


 客観的な私の立場でなく、私自身の思いを申し上げるとするならば、「義兄上たちを差し置いて出世してしまう」という申し訳なさにつきる。

 いくら私が正室の長男であるとはいえ、実質は三男だ。家長の器ではない私が、義兄上たちより先に官職を賜ることには抵抗がある。


 返答申し上げたが、得心しておらぬのを見抜かれたらしい。

 父上が苦笑なさった。


「もしも義平ならば、『文官は向かぬ』と申すだろう。朝長は引き続き中宮職に勤めるゆえ、いずれにせよ、皇后宮へはそなたが参ることとなっておったのだ」

「……承知致しました」


 義兄上たちにわだかまりがないのなら、私も得心できよう。


「鬼武者」


 今度は母上から、穏やかに呼びかけられた。


「わたくしは正室として、此度のそなたの任官を喜ばしく思います」


 母上のお言葉に、私はハッとした。


 ……そうだ。母上は〝正室〟として、嫡男を生むという責務を命懸けでなさった。

 私は自分のことばかりで、母上のお立場を慮ることを忘れていたのだ。


「……申し訳ございません、母上……」


 頭を下げた私に、母上は柔らかくお笑いになった。


「異母兄弟でありながら、仲がよろしいのですもの。そなたが思いを巡らせるのもわかります」


 母上の優しいお声が、そっと耳に入ってくる。


「正室としては言うまでもありませんが、そなたの母として、我が子の出世を嬉しく思います」

「母上……」


 顔を上げると、母上はお声の通りに優しく笑っていらした。

 ……ならば、私にできることは……


 私は、お二方に向かって拝礼する。


「……精一杯、務めて参ります」


 今の心のすべてで、決意を申し上げた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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