表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
己の姿を気にかけず ──保元元年(1156)葉月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/67

一話




 気がかりだった常盤の義母上のご容態は安定し、無事に出産なさった。

 乙若丸と名づけられた義弟は2歳となり、今は北対でお昼寝中だ。


 〝乙若〟とは、(常盤の義母上の)2番目の男児という意味である。


 ここだけの話だが、この子の顔を見ていると〝乙女〟の〝乙〟ではないかと思ってしまう。

 大きな目を縁どる睫毛は長く、色白の肌に映える小さな唇は、血色よく艶もある。

 骨格も、今若丸が2歳だった頃より華奢な印象がある。

 元服より裳着が似合いそうな風貌だ。


「おとわか、ねてる」


 私の隣で、今若丸がのぞきこんだ。


「うむ。今若丸も昼寝を致すか」

「ねむくない」


 先ほどから動作が緩慢になってきた今若丸が、目をこすりながら「おきてる」と主張する。


「乙若丸を見守っておるのか」

「まもる」


 4歳になった今若丸は己より小さな子を見て、本能で「これは守るもの」だと理解しているようだ。


「偉いな、今若丸。立派な兄ではないか」

「いまわかは、あにうえになる」


 兄上のようになる、と言いたいらしい。


「義平義兄上か」

「ちがう」

「では、朝長義兄上か」

「ちがうー」


 私が正解を導けないので、頬を膨らませる。


「あにうえは、あにうえ」

「……もしや、私のことか」

「ん」


 今若丸は、性格的には義平義兄上に近いと思うのだが。私のようにとは、いかなることか。


「おとわか、〝いいこいいこ〟する」


 確かに、事あるごとに今若丸の頭を撫でてはいるが、それは──


 私は普段の接し方を振り返り、今若丸の思考に繋がる優しい答えに、頬を緩めた。


「うむ。たくさん褒めてやるとよい。きっと、今若丸のように、優しく賢い子になるだろう」

「ん!」


 今若丸は、得意げに大きく頷いた。


「ならば、乙若丸が起きたら、何と褒める」

「うーん……」


 一人前に腕を組み、首を傾げる。少しして「あっ」と顔を上げ、私を見た。


「『いっぱいねた』、ほめる」

「それは良きことだ。『寝る童は育つ』と申すゆえ、今若丸も昼寝を致せば、さらに大きくなろうぞ」

「あにうえと、いっしょ?」

「私よりも、大きくなるやもしれぬな」

「ねる!」


 私に乗せられた今若丸は、お付きの女房さんに布団の催促をする。「敷きましてございます」と手で示された布団を見て、「ほぉお!」と目を輝かせた。

 手品のように思うのだろう。


 今若丸には明かさぬが、私たちの会話はこの部屋にいる者すべてに聞こえている。

 仕事のできる女房さんは、お昼寝をする流れになるであろうことを読みとり、布団を敷いてくれていた。


 今若丸は意気揚々と布団に入った。

 だが、気合いが入りすぎて、眠気が飛んでしまったらしい。


「……あにうえ……」

「うむ」


 困り顔を向けてくる今若丸の傍に腰をおろした。


「子守唄を歌うか」

「ん!」

「ならば、目を瞑るがよい」


 嬉しそうな表情になった今若丸の頭に手をあて、そのまま額をすべらせて目に影がかかるようにする。

 素直に目を瞑った可愛い義弟の頭を数回そっと撫で、その手を静かに衾の上に移動した。


「♪ねんねんころり ねんころり」


 今様節で、ひたすらゆっくりと歌う。

 幼児用の衾越しに、とん……とん……と、手のひらでリズムを軽く伝える。


「♪坊やのまぶたは 仲良しぞ」


 子守唄を歌う利点は、必ず眠ってくれることだ。難点は、大人まで眠くなるらしいことか。

 女房さんたちが口元に袖を添え、あくびを我慢している。

 今若丸が眠ったら歌うのをやめるので、しばらくおつきあい願いたい。


「♪ゆらりと夢の (おとな)いに」


 今若丸の呼吸が深くなってきた。少しずつ眠りの世界に入っているようだ。


「♪まかせば心地の よかろうぞ」


 2度ほど繰り返す間に、しっかりと寝入ったらしい。「……ふすー……」と可愛い寝息をたてている。


 ほほえましさに目尻をさげつつ、今若丸を起こさぬよう、徐々に手を離していく。

 膝に手を戻した辺りで空気に温かさを感じ、顔を上げた。女房さんたちも、私と同じような表情をしていた。


子守唄の今様節について:〝越天楽今様〟を参考にしております。



お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ