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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
蜘蛛の毒は侵食す ──保元元年(1156)文月
19/67

四話




 小助の報告により、この乱が予定調和だったことを知る。



   ✽ ✽ ✽



 5月にお倒れになった鳥羽法皇陛下は、御身に万一のことあらばと思し召したのだろう。


 崇徳方に寝返る者が出ないよう、法皇陛下の警衛隊であった北面武士(ほくめんのぶし)10名に、忠誠を誓う誓約書を差し出すよう命じられた。

 その誓約書には、平清盛公や、源為義(おじいさま)の名もあったそうだ。



 また、6月に入って間もなく、回復の見込みなしと御典医によって判断された。


 それを期に、崇徳方からの襲撃が来ることも視野に入れた。

 法皇陛下のおわす鳥羽殿を、院近臣(いんのきんしん)など有力な方々が。

 後白河天皇陛下の里内裏・高松殿を、父上と源義康殿が、各々の随兵(ずいひょう)を率いて警護をなさっていたらしい。


 義康殿に関しては、母上と義康殿の室殿(お嫁さん)が姉妹という、父上とは相聟(あいむこ)の関係で、お名前だけは存じ上げていた。



 それから1ヶ月後の7月2日、法皇陛下が崩御された。


 その間際、崇徳上皇陛下は子としてのお務めとして、御臨終のお見舞いをなさろうとした。

 だが、法皇陛下の側近・藤原惟方(これかた)殿により、それは叶わなかった。


 法皇陛下の御遺言だったそうだが、もしかすると、父として弱った姿を見せたくなかったのかもしれない。もしくは、敵となった者を貶めんとする、今際(いまわ)の際での報復だったのかもしれない。

 どちらも憶測でしかなく、真意は法皇陛下の胸の内にあるのみだが。


 いずれにせよ、この事柄によって、崇徳上皇陛下のお怒りに、一層激しい火をおつけになったことは確かだった。



 その3日後。7月5日に突如として事件は起きた。


 上皇陛下の御心を歪曲した、「上皇陛下は左大臣・藤原頼長と謀り、兵を挙げて国を転覆させようとなさっている」との〝噂〟が流れたのだ。


 確かに臣下たちは挙兵の準備をしていたようだが、上皇陛下御自身が法皇陛下への最期の対面を許されなかったことは周知の事実だった。

 即ち、「崇徳方につくことは、今後(出世)を捨てること」と同義と見なされた。


 事実、崇徳方に加担していた者の中で、我が身可愛さに手を引き、さらに後白河方についた者もいたそうだ。


 その事態を収拾するとの〝名目〟で、「京の武士の動きを停めよ」と、後白河天皇陛下からの勅命が出た。


 翌日には見せしめのごとく、崇徳方の源親治(ちかはる)殿が、兵を率いて京に入ろうとしたところを捕らえられた。



 さらに追い討ちをかけるように、7月8日。


 頼長殿ら崇徳方の諸国に向けて、「荘園から兵を集めることを差し止める」との綸旨(りんじ)が申し渡された。


 同時に、頼長殿自身も「謀反の意あり」との嫌疑により、蔵人(くろうど)・高階俊成殿と父上の随兵に東三条殿(頼長の邸宅)に押し入られ、その邸宅を財産として没収された。


 頼長殿は律令や儒教を重視するあまり、慣例を無視するような政治をなさっていた。

 また、苛烈な性格により、権力を笠に着て随分なことをなさったとのことなので、粛清のための大義名分が必要だったのだろう。


 そして世に知らしめたのだ。「後白河方は、有力姓の(おさ)ですら、〝謀反人〟とする力がある」のだと。


 結果として、四面楚歌のごとく周囲を固められ身動きの取れなくなった崇徳方は、わずかな手勢で戦うことを余儀なくされた。



   ✽ ✽ ✽



 以上が、保元の乱が起こるまでの子細である。


 これらすべてが信西殿の計略というのだから、「油断ならぬ者」という父上のお見立ては、正しかったといえる。


北面武士:院の直属軍。院御所の北面(北側の部屋)に控え、院御所内の警備をしていたことから。

院近臣:上皇や法皇の側近。また、その集団のこと。

随兵:従わせている兵士。

里内裏:内裏の他に皇居とされた場所。母方の親類の家が多く使われました。

勅命:天皇の命令。

綸旨:蔵人が天皇の意を受けて発給する命令文書。

蔵人:天皇の秘書の役割をする人。



お読み頂きありがとうございます。


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