自宅にて−2
寛ぎながら見ていたアニメは中間のCMに差し掛かったという事もあり、いよいよパソコンのパスワードに手をかける事になる。
パスワードを入れると何時も通りの軽快な音がスピーカーから流れてきた。
瞬く間にパソコンはネットへと繋がれ。
ネットの中の友人である、島根が俺のパソコンへメッセージを送ってきた。
俺は渋々、送られてきたメッセージを確認した。
島根「おい、メール見たんか!!」
やはり島根の話題はメールの事だ。
今の島根にとっては送られて来た赤紙が相当重要なのだろう。感情の読み取れない相手に深い溜息をつきながら、一文字で造った文章をメッセンジャーに送信する。
正道「ん」
島根「メール見たんか?」
正道「ん?」
二回目の「ん」という文字を入れた辺りでネットの向こうの島根が煙たそうに顔文字を書いてきた。
そして、俺はアニメの続きを放棄する決意をした。
残りの展開は非常に気になるが録画してあるのでたぶん問題はないだろう。最悪ネット上で探せば事足りる。
それよりも今は友、長年の友情を優先するべきだ。
パソコンデッキの窪みに押し込んであるイスを後ろに引いてから、気ダルそうに腰をかけると、ネットの中の親友と本格的にチャットを開始した。
正道「メールの内容はちゃんと確認したよ。返信しなくて悪かった」
島根「俺の青春をかえせー! 日本政府は人権を何だと思ってるんだよ」
正道「そういえば赤紙って何?」
俺は島根にとって無知な発言をしたらしい。
島根は俺の発言を聞いて少し驚いた顔文字を書いてきた。
もちろん俺も赤紙が何かは知っているさ、戦争の時に使用されたあれだ。でもそんな現実離れした事が起こるはずはない。
島根「それは徴兵令だろ、そんな事も知らないのか」
正道「えっ、ん? 徴兵!? 遂に脳みそまでやられたのか」
島根「http://www.**********.news ←ソース」
島根「そういえばお前何県?」
正道「出身は茨城で今東京に住んでるよ。前に言わなかったっけ?」
島根「あ〜そだっけ? ちなみに俺は北海道だから駐屯地は別の場所になるな」
正道「ほむ?」
島根「それじゃ、親とかに連絡しなきゃいけないから次は戦場でね」
島根様がオフライン状態になりました
一頻りの嵐が過ぎ去っていった。
俺は、暫く島根の残したチャットログを茫然と眺める事しかできなかった。
眺めてある事に気が付く。本来なら直ぐに確認するのに、今回ばかりはその作業を怠っていたのだ。
「ソース!」気がつけば叫んでいた。島根の残したニュースサイトのソースが俺の目に飛びこんでくる。
たぶん戦争ゲーム好きなあいつの事だ、きっと特別なイベントに浮かれているに違いない。
俺は意を決してリンク先を確認する事にした。自分が唾を飲み込む音が聞える。
俺の後ろではテレビのCMが開けたらしい、アニメの続きが放送されていた。
軽快な口ぶりでヒーローが悪役を叩いて行く。
パソコンの画面上にはニュースの内容が全体にデカデカと表示されていた。
内容を確認して俺は絶句した。固まってしまった……。
しばらく何も考えられなくなり、思わずニュースの内容を復唱する。
「国会が自衛隊の格上げを容認。徴兵令を発令」
ニュースの日付を確認すると、発表されたのは今日の午後、時間は四時と表示されていたので、今から二時間前に発表された事になる。発表はそれよりも早いか、ニュースになるのに時間がかかるはずだ。
そんな事をパソコンの前で顎を撫でながら考えていた時だ。俺の後ろで締めの大技を繰り出そうとしていたヒーローの声が急に止んだ。
その異常な出来事に驚き俺は大慌てで後ろへと振り向いた。
テレビの中のヒーローは消え、画面中央には二人の人間の姿が写り込んでいる……。無論アニメではない。
一人の女性キャスターは見覚えがある、最近花形と注目されている柳川キャスターだ。
でもその横に座っている黒スーツの男性にはまるで見覚えがなかった。
テレビの不足の事態に面を食らっていると柳川キャスターの一言で緊急番組は始まった。
「番組の途中ですが緊急のニュースが入ったのでお知らせします」
その言葉を皮切りに、二人は座ったまま深々と一礼すると柳川キャスターの一言で緊急のニュース番組が始まった。
この時間『不滅勇者ジャンクキング』は、ゴールデン前だというのに視聴率は毎回30%を超える超人気アニメ、故にこの緊急放送を視聴している人は相当な数になっているだろう。