自宅にて−1
俺が家に帰った時には既に時計の針は六時をさしていた。
俺は、その針に驚き慌てながらテレビの電源を入れる事となる。
本当なら十分前に家に帰るはずだったのに全力でコケて踏み切りにバカにされた分、予定より帰るのが遅くなったんだ。
テレビを付けると、時代遅れのブラウ管は映写時のノイズ音と共に徐々に映像を写し始めた。完全に映像が映り終えたのを確認してから、アニメ専用チャンネルへと切り替える。
そして、映し出された映像を見て俺は少しばかりホッとした。流行のアニメ『不滅勇者ジャンクキング』は、まだオープニングに差し掛かったばかりで、これから入るCMの時間を使って俺はパソコンの電源を入れるだけの余裕を確保する事ができたからだ。
それと同時進行で予約録画機能の壊れたビデオデッキを操作する。赤い丸ポッチがビデオデッキの左隅に表示され、晴れて録画完了となるのだ。
パソコンの電源を入れた事により、俺の後ろの方で、OSの画面へと以降した可愛いパソコンが、俺のパスワードを今か今かと待っている。
――だがまだ入力はしない!
暫くパソコンをそのまま放置しなくてはならない。
なぜなら、先ほどスーパーで買った品を冷蔵庫へと閉まれなければいけないからだ。
潰れたスーパーのレジ袋を広げると、黄色い水溜りにヒタヒタになった野菜達が俺の救出を待っているのが伺えた。
そして、慎重に野菜を取り出す。まず始めにジャガイモからだ。
バラ売りで買った野菜達を見て悔しさがにじみ返って来たが、今はこらえるんだ。
ジャガイモの後、ニンジンと続けて救出し、流し台へと放り投げると一枚のステンレスで出来た流し台はベコっという弾みの良い音を上げて野菜達を受け入れた。
その直後の事だ、ジーンズのポケットに入っている携帯電話が激しく振動したのだ。
普段から携帯電話はマナーモードに設定している。
正直、着信音なんて迷惑なもんだし、一々設定するのが面倒臭い!
それに電話かメールかも、今は、携帯のバイブレーションのリズムで大体わかるものだ。
今回の振動のしかたメールだ!
少しワクワクしながら貝の様に二つ折になった携帯電話を勢いよく広げると。久々に送られてきたメールの主を確認した。
差出人は島根の隊長からだった……。
島根の隊長(以下島根)
島根の隊長とは長いネットゲーム仲間だ、知り合って四年位になるだろうか。
特に軍事関係物には目がないらしい。俺も軍事関係に興味を持っている事もあり、良く一緒にネットゲームをするようになった。
今やっているネットゲームも島根が言い出した物だ。
仮想の戦争世界を良く二人で走り回ったものだ。
島根は良く仕切りたがるので仲間が望んでいない指示をしょっちゅう出していた。
最近ではクラン(チーム)を作ろうかという話も上がっていたくらいだ。
だからと言って直接メールを遣り取りする仲というわけでもない。いや、メールのやり取りをする必要がなかったと言った方が良いだろう。
パソコンにインストールされた高性能メッセンジャーで島根の方から勝手に話し掛けて来るのだからワザワザ携帯電話を使う必要が無かったんだ。
とは言えメールの内容が気にならないわけでもない。
件名に表示されている『人生オワタ』というタイトルと共にニッコ笑いながら両手を広げた顔文字には興味をそそらる物がある。
問は言え、冷蔵庫の前で携帯電話を眺めながら電波世界の友人が送ってきたメールの件名を茫然自筆と眺めていたって何も始まらない。ここは勇気、勢いが肝心なんだ。
俺は、ゴクリと唾を飲むと携帯電話の中心にある確定ボタンを押した。
夏でもないというのに俺の額からは一筋の汗が流れた。
そして、携帯の内容がディスプレイ全体に表示されたのだ。
『今、ポストの中確認したら赤紙入ってたんだが。マンドクセ……。お前家どうよ?』
俺の頭の中で「?」がグルグルと回っている。
こいつは何を言っているんのだ? そもそも赤紙って何なんだ……。
俺は頭中の「?」を重く抱えたままメールを返信するか幾分悩んだが。
部屋の奥からはテレビ番組の主役である「ガラクタキング」と「自称悪役」の掛け合いが盛大に繰り広げられていた事もあって。
その掛け合いの声と共に、携帯電話を畳むと、大慌てでジーンズへと仕舞い込み自分の部屋へ戻る事となった。
台所の流し台では今も直、野菜達が泳いでいるがそんな事は関係無い。
三十分後に戻って調理をしてやれば良いのだから……。たぶん、今日の飯は巨大な卵焼きになるとは思うが。