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日本某所

((日本某所)

 

 ――そこには、自衛軍が極秘に作った研究施設がある。

 都心から少し離れた田舎の山奥だというのに、地下300メートルという途方も無い深くに建造された施設。その規模は途方も無くデカイ。

 そして、その実験施設の一室では一人の科学者と助手の女性が会話をしていた。科学者はイスに沈むように深く腰を掛け、助手は立ったままの姿勢で片手を机に付いていた。

 机に手を付いている助手は少しズレ落ちた細めのメガネを指で調節すると、暗い表情で科学者へと質問している。

 

「教授、結局AIの搭載までは行きませんでしたが大丈夫でしょうか?」

 

 前方にあるディスプレイ、ブラックスクリーンに緑色で羅列された、奇怪なパラメーターを眺める一人の科学者は、助手の発言を黙って聞いていた。

 科学者の年齢は五十代前半だと思われる。助手の年齢は大体二十代くらいか。

 電気の半分消えた研究施設の一室で、暫くパラメーターを眺めていた科学者は作業が一段落ついたのだろう、先ほど助手が放った質問へと答えを返した。

 

「まあいいさね、今回の一件でAIは使えないにせよ、それ以上の性能を持つ者を使えるのだから、何も問題はない。」

 

 少しの間が流れ、科学者はまた喋りだした。

 少し陽気に、腕を広げて。

 

「むしろ良すぎるくらいじゃないかね。AIのレベルなんてたかが知れているだろ。所詮人間には叶わないよ」

「そうでしょうか。私は思うのです……このようなシステムに人間を起用するなど、馬鹿げていると……」

 

 助手の真横で構える科学者の耳が少しだけ動いたのを確認できた。

 それは一瞬だった。

 科学者が助手の言葉に同様しているのは明らかだった。

 だが、その同様を隠すようにまた、科学者は助手へ向けて淡々と話し始めた。

 

「化学の発展には犠牲は付き物だよ、それがわからない内は君もまだまだ化学者とはいえないね」

「こんな形でこのシステムを、彼らを使いたくはありませんでした。もっと別の方法があったと思い……ます……」

 

 助手が放つ歯切れの悪い口ぶりからは覇気がまるで感じられず、助手の無念な感情は科学者へとヒシヒシと伝わっていった。

 その後少しの会話の後、アシスタントは実験施設の出入口にある押し戸式の片面扉を開けると。

 その勢いのまま、外へ足を一歩踏み出した。

 助手が一歩踏み出した直後の事だ、後ろのパソコンデスクに座る科学者は無機質な口調で助手を引き止めた。

「私はもう君の教授じゃないんだ、同業者として名前で呼んでもらいたいんだがね」

 助手も無機質な口調を習って返事を返した。

 その口調は科学者に負けず劣らずといった感じの淡々とした物で、完全に仕事の仲間の会話である。

 

「そうですね、それじゃ失礼しました高島さん」

「ああ、期待しているよ鈴木君」

 

  科学者が助手へと軽い挨拶を終えると、後ろの方で扉がそっと締まる音がした。

  研究室には科学者が一人だけ残っている。

 

「若いっていうのは良い物だね。私の学生の頃はあんな態度ゆるされなかった」

 

 イスに深くもたれPCの画面を眺めながら。奇怪に、乱雑に、ディスプレイの上段から下段へと流れるパラメーターをぼんやりと眺めながら。

 そして、ボソボソと眩いた。

 

「使えるものだったら私だって平和利用のために使いたかったさ」

「それよりも明日の演説はどうしたものか……」

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