エピローグ
入隊6ヶ月後
施設での生活にも慣れてきた頃、俺宛に一通の便箋が届いた。
訓練前の空き時間。俺はその便箋を持って、施設何で唯一、緑豊かな中庭へと足を運ぶ事にした。
旧友から貰った手紙、気分的にそうしたかったのだ。
円形状に作られた施設の中庭で便箋の封を開けると、白い手紙が一通だけ入っていた。
*
元気にしてるか?
まさか厳しい軍隊訓練の中で、書く手紙の相手が一通分余計に増えるとは思っても見なかったよ。
ゲームの中では、あんなにキビキビ動いていたのにさ、いざ自分があの状況に立たされると妙な気分になるもんだよ、まったく。
恐怖でも無い、だからと言って心の奥から湧き上がる悔しさとかそんな類の物でもないんだ。
唯、与えられた訓練科目を必至にこなす毎日で、入隊当時聞かされた戦争の二文字が今では幻聴のような気がしてならない。
このまま戦争も無しに、元の生活に戻れれば良いのに。
それと今度、何処の部隊に所属しているのかくらいは教えてくれよな。
島根 純より
懐かしきネットゲーム仲間から貰った手紙、この騒動でやはりあいつもそれなりに苦労しているのだろう。
一陣の風すら吹き込まない中庭で黄昏ていると、俺の頬にひんやりした何かが触れた。俺はその感覚に驚き、振り向くと、俺の横には一人の少女が立っていた。
「君は?」
「あっ、ごめんなさい、急にこんな事して。驚かれましたよね?」
「少し……びっくりしたかな」
「私、草加って言います。真剣に何か見てたみたいで、声掛けづらくって」
「そうなんだ。でっ、俺に何の用?」
「正道さんですよね? 演習第三班の」
「何で僕の名前を知っているの?」
「えー、結構有名ですよ、戦術の奇公子っていう二つ名は」
ひんやりした何かよりも、不意に出た自分の言葉に俺は驚いた。
施設内で半年間過ごしたとはいえ、まだ顔を知らない仲間も多いのだ、この草加という少女も例外では無い。俺は今初めて彼女に会ったのだから。
「私は演習第二班なんですよ」
「……!」
「もしかして……今日の訓練で戦う……」
「はいっ」
中庭に元気の良い声が響き渡った。
訓練内容にも幾つかあるが、サイクロプスの主な任務が前線に立つ事なので、必然的に実技演習が多くなる。
「これ差し入れです」
少女は、目一杯冷えた缶ジュースを俺に渡した。どうやら先ほど俺の頬に触れたものは、この缶ジュースの様だ。
「訓練が終わったら、また中庭に来てくださいね。話たい事があるんです」
少女は俺に一言告げると、颯爽と走り去っていった。
その後、静かになった中庭の中で、先ほど貰った缶のジュースの蓋を開けると。次の訓練で戦うであろう第二班を倒すべく、俺は戦略を考え始めていた。
中庭のベンチに凭れながら。
終わり
どうでしたでしょうか。
電送機兵サイクロプスは?
こんな小説でも楽しんでいただければ幸いです。
この後の続編の目処はたっていませんが
話は続けて書いていきたいと思っています。
続編が出たときなど、また読んでいただければ幸いです。
それでは皆さんまた会う日まで(´・ω・`)ノシ