始まりの朝
気が付けば朝、鳥の囀る声さえ届かない地下の奥深くで、三度目の朝を迎えた。一通りの選抜が終え、落ち着いたのが昨日の夕方。
運ばれた学生の数凡そ一万人、その中から五百人選抜するのに二日間。奇才な戦術を使った御蔭で、最初の方に選抜された俺達は碌に外出許可も下りない宿舎の中で暇な日常を過ごす事になった。
やる事といったら昼寝くらいしかないんだ、テレビが置いてあっても砂嵐じゃ意味が無い、川辺達との会話も初日でネタが尽きちまったしよぉ。
……と言っても、それは昨日までの話。今日の入隊式が終われば一通りの娯楽施設は全面開放になる。
期待に胸を膨らませる中、俺の部屋にノックの音が飛び込んだ。
俺はその音に声を張り上げて返事を返すと、扉を開けた。そこに立っていたのは試験当日から見慣れた顔だった。
「よう大将、そろそろ始まるで、入隊式」
「あれっ、それって自衛官の人が呼びにくるんじゃなかったんだ?」
俺の言葉を聞いて川辺が少しばかり顰めた面を見せた。どうやら俺の発言に可笑しな所があったらしい。
「駄目ですねー。正道さん、貰った入隊届見てないんですか?」
川辺の横から、見慣れた丸メガネが顔を出して来た。
そして、俺は自分の部屋の奥に置いてある入隊届に目を通した。
「ふむふむ。入隊式当日は九時までに中央ホールに来るように……」
「今何時だっけ……?」
「もう十分前やで、はよ行かんと遅刻してまうぞ。入隊そうそう懲罰なんて御免やからな」
その後、大慌てで準備を済ませた俺は、何とか時間内にホールへ潜りこむ事に成功した。
周りを見渡して見る、この研究施設に運ばれた当初、辺り一面を埋め尽くしていた学生の面影は何処にも見当たらない。今このホール内に居る人達は、あの理不尽な試験を受け、高島達から素質有りと認められた猛者ばかりだ。猛者の中には華奢な女性の姿も見受けられるわけだが。
その後、二人の足音がホール内に鳴り響くと皆檀上の方を凝視した。愈々入隊式が始まるようだ。この入隊式が終了すると同時に俺は軍人になる……。