隊長の正体
地下の廊下、通気口から吹き抜ける生暖かい風に、カサカサした換気扇の音が不気味な雰囲気を醸し出していた。
「せやね、大将」
「なんだ?」
「ワイ一つだけ気になる事があるんやけど」
「でっ? なんだ?」
応接室から廊下に出た時の事、俺達を案内してくれた自衛官は、腕を後ろに組み微動だにする事無く仁王立ちで中から俺達が出てくるのを待っていた。帰りもエスコートしてくれるのかと思いきや、手に持った封筒を見ると「自分たちで帰れ」だ、行きと帰りで扱いがまるで違うぞ。
というわけで、俺達三人自分の待機部屋までの道のりをトボトボ歩いているわけなのだが……。
「助手のネーちゃんがあそこまで話に入り込む理由ってなんやったんやろか」
川辺は何処となく上の空で、頭の後ろで手を組むと俺に疑問を投げかけた。
「さあな、唯のお節介だったんじゃないのか? 黒人の中将嫌いみたいだったし」
その川辺の問に答えを出したのは、意外な人物だ。俺を外せば廊下内に残るのは無口な丸メガネだけになるので、意外とも言えないが。今までまるで喋る気配を見せなかった萩原が応接室を出た瞬間にテンションを巻き戻しだ……立ち直りが速い……。
「皆さん、あの声に聞き覚えないんですか? 僕一発でしたよ」
「アッーーー」
俺の記憶が脳内で再生されていった。そして、今日の試験中に聞いた一人の女性の声が頭の中で蘇る。一瞬で声の照合は終わった、電撃が走り抜け、過ぎ去ってから直ちに叫びにも似た声を轟かせていたのだ。
「なんや、大将、急に大声なんて上げよってからに」
「そうだ、隊長だ……」
「何や隊長がどないしたって?」
「川辺さん鈍いですねー、高島さんの後ろでトレー持ってたの隊長ですよ」
未だ声の主が掴めない川辺に萩原は補足説明をした、ピンポイントで説明を聞いても直川辺はパットしない顔をしていた。どうやらまだ納得がいかないらしい。
「そんなわけあるかい、あのとろい隊長が勇敢なネーちゃんでたまるかいな」
「あっ、でも隊長科学者の助手やってるって言ってたし……」
「川辺さん、もしかして惚れたんですか?」
「そんなわけあるかっボケー」
確かにあの助手を名乗る女性は隊長だ、間違いない。だが、一つだけ腑に落ちない事がある。隊長は俺達を助けてくれる、それはチームリーダーとしての情、これで間違いない。
なら高島はどうだ? あそこでマーキス中将と揉める事に利益なんてあったのだろうか。
「隊長が萩原を助けるのは分かるんだけどさー、高島チーフが鈴木助手の嘘に口裏を合わせたのはどうしてだったんだろう?」
徐に出た俺の問は結局空振りに終わった。結局誰もわからないのだ、人情で助けた助手と違い明確な理由も思い浮かばない。もしかしたら高島はマーキスの事が嫌いなのかも知れない。あるいは気まぐれか、本当にコクピットに異常があったのかもしれないし。
考え込んでいる内に気が付けば宿舎だ。軽く挨拶を済ませると俺は自分の部屋で待機する事になった。二人分のスペースで造られた大きな部屋だ……。
応接室の帰り道、結局明確な答えは出なかった、三人の間では気まぐれという言葉で納得せざる負えなかったが、どうにも腑に落ちない。
部屋のベットに寝っ転がると、身体が沈む感覚が心地よかった。