結果待ち-3
渋るマーキスへ、声を整えると鈴木助手は話を続けた。
「三号機の通信システムの件で言い忘れた事があります」
「本当に今更だな。アイツはもうリタイアと決めているんだ、どんな反論も聞かんぞ。高島と相談して決まった事なんだからな」
俺は目の前で始まった痴話言に目を丸くした、助手の前で座る高島も止める気配を見せず、唯々自分の目の前に置かれたコーヒーに舌鼓を打つだけだ。
「いいか、内容だけなら聞いてやる、その変わり直ぐ終わらせろ、私をこれ以上怒らせるな!」
助手は苛立ったマーキスの声に圧倒されながらも話す内容を整えている様子だった。この助手が自分の身を訂してまで三号機の件に突っ掛る理由は何なのだろうか? 今マーキスを怒らせる事に何の意味があるのだろうか……。
「三号機のコクピットに欠損が見られたんですね、操作系に関してです……」
マーキスは助手の言葉を聞くや、鼻で笑い飛ばした。
「何だねそれは、私はそんな報告を受けていないし高島からも聞いていない」
「特に通信系統に異常が見られたんです、後で報告書を上げるつもりだったのですが……」
助手の言葉に唖然とするしかなかった。唖然としているのは俺だけじゃない、川辺も萩原も目を丸くして、目の前の有り得ない光景をただ凝視し、突飛な会話の行く末を見守るしかなかった。
俺達は萩原から聞いている、萩原が試験中会話に参加できなかったのは彼が操作資料を忘れたからだ。そして、小心者の萩原は試験中に説明を受けた事以外の無駄な操作は一切行わなかったと俺達に自分で言ったのだ。
今一番驚いているのも萩原本人だろう、これが意図的に仕組まれた事であっても、偶然に起こりえた奇跡であったとしても流れは確実に俺達に見方をしていた。
「妙なハッタリを言うんじゃない、そんなピンポイントにエラーが出るわけないだろ」
「ですから、後で報告書を出すって言ってるじゃないですか! 三号機君の結果を出すのはその後でも良いと思いますけど!」
頭の固いマーキスに対して助手の言動も徐々に熱を帯び始めていた。
「報告書などいくらでも偽装出来るものだ、そんな物に惑わされて判断を誤ったとなれば一生の恥だ。やはり君の意見は認められない」
「ですが……」
「お前、贔屓してるんじゃないのか? チーム――」
「ちょっと待ってくれないかマーキス、私は彼女から報告を受けているよ」
決まりかけた結論に、思わぬ所から支援が入った。マーキスが「高島と決めた事だ」と強調して言っていたせいで、高島は今まで静観していたと思っていたのだが……。
だからといって助かったとも言い難い。把握した上で結論を出したと言われれば結局そこで終わりなのだから
「あっ、えっ? お前さっき話をした時何も言わなかったではないか」
「お前とは失礼だね、この施設では私の方が地位が上だと言うのに……。上官に話す事と同じだと思え!」
「それはすまない、私が悪かった……」
高島はマーキスを一括した。見るからにマーキスの方がお偉いさんだと思っていたのだが、そうでも無い様だ。まさかこのボサボサ頭の科学者がマーキスの上官になるとは……。
「君が話を進めすぎるからいけないんだ。私は言ったぞ、結論を早まるなと」
「つまりエラーは本当にあった事だと……」
気がつけばマーキスは額から冷や汗を流し、吐く言葉もシドロモドロ、助手が戻って来る前の覇気の面影は何処にもない。
「私、思うんですよね。あの状況で味方に合図を送る方法を見つけた彼のポテンシャルは素晴らしいと」
――支持の出し方を説明したのは川辺なのだが……。
高島に続く様に助手はマーキスへと追い打ちを入れた。嫌味ったらしく、チクチクと刺さる助手に、言葉に、マーキスは何一つ返事を返す事が出来なくなっていた。
「俺からも彼を推薦します、多分この中の三人、あるいわ隊長を入れた四人の中で彼が一番機械の操縦に慣れていると思いますけど」
今このチャンスを逃すわけにはいかない、その思いが俺を喋らせたのだろう。気がつけば俺も萩原の弁明をしていた。
「ワイからも頼むわ、こいつ本当はもっと明るいやつなんや」
俺の後に川辺が続いた。マーキスは直戸惑う表情を見せたが、額の汗を拭い、視線を萩原に合わせると鬼の形相で睨みつけた。
「だからと言って、コイツが通信システムを使った証拠にはならないではないか、エラーだって偶々だったのかもしれない」
マーキスにも軍人指揮官としてのプライドがあるのだろう、四方八方から飛び込んでくる反論を退けるとすぐさま体制を整える。
出来る事なら完全に体制を整える前に、逃げの口実を造られる前に、潰したいところなのだが。