運命の三ラウンド-1
俺は隊長のその発言を聞くと慌てながら通信を返した。
「触らないでくださいね。気がつかれると大変なので、隊長は待機していてください」
「そうやな、またヘマされても困るわ!」
「何よその言い方、私が何時ヘマしたっていうの」
「初めから! 最後までや!」
「二人ともいい加減にしてください! このラウンドは重要なんです。四号機さんも隊長をあまり刺激しないでください」
四号機の軽い舌打ちと共に、通信が終了した。
俺は、隊長の所まで歩み寄ると、隊長の視点と同じ様になる場所を探して止まる。
そこからは、確かに、微かだがキューブの隙間から敵のTSCの頭部を確認する事が出来た、距離にして15メートル程、ライフルで慎重に狙えば射抜くのも不可能では無い距離ではあった。だが、正直もう一歩。不確定要素の方が遙かに多い。
「どないするんや。射てまうか?」
俺が、その通信に気が付き四号機を見ると、手に持たれていたライフルは敵の方向を向いていた、なので彼は照準を合わせた状態で通信を入れて来たのだろう。
……正直驚いた。
今にも引き金を引き、すべてを台無しにしてしまいそうな彼を見て慌てて通信を入れた。
「いや待ってください、まだ微かに見えている頭じゃ確実じゃないです。もっと確実に倒せる状況じゃないと……」
「せやかて、これ以上近づいたら気が付かれてまうやろ」
確かに四号機の言う通りでもある、かと言ってこのまま博打をするわけにもいかないのだ。
俺は苦渋の決断を前に2ラウンド目の事を思い出していた。
正面から目の前の青いTSCに飛び込んで行った。遙かに有利な状況下の中で、操作慣れしていないという理由だけで、頭部二発……返り撃ちだ。
今回も有利な状況には変わりはない。だからと言って先制攻撃を外した場合、前のラウンドの二の舞を踏む可能性は高い。
決断を迫られる緊迫した空気に光明を射すかの如く、俺達の真下のキューブで物音がした。
無論、敵ではない。下のルートで俺達の後を追って来ているのはただ一人、三号機だ。
俺は敵を視線で捉えるのを止め、真下に居る三号機を覗き込むと三号機は何やら支持を待っている様子だ。
そして、俺は一拍の間も待たず、全体に通信を入れる事にした。
「彼に、頑張ってもらえないですかね?」
「彼って……三号機君の事?」
「どないするんや?」
「三号機さんに、敵の後ろに回りこんでもらうんです」
「なるほど、陽動作戦ちゅう事か」
「危なくないかな? 一人でも戦力がある方が良いんでしょ?」
「隊長がソレを言いますか……。彼には敵を引き付けてもらうだけなので安全です。それに敵の位置も把握できているので、問題は無いとおもいます」
前方の敵の位置だけなら丸見えだ。これが作戦を考える時にどれだけ有利な事か……。
この状況なら三号機に指示を出して敵の背後まで誘導させる事も簡単にできるのだ。
三号機の頭上で作戦を練る俺達の通信に答えるように、三号機の頭部が上下に揺れるのが確認できた。
「どうやら、三号機さんは陽動に参加してくれるみたいです、後は隊長が容認してくれれば直ぐにでも実行に移しますけど」
「私は、別に……。イイワヨ、やりましょう。これ以上コケにされてたまるもんですか!」
隊長は少し口籠ると、直ぐに口調を強気へと直し作戦を容認する意思を見せてくれた。
その後、俺は皆に作戦の段取りを説明してから実行する事になった。
「それじゃ、四号機さんお願いします」
「おうよ! 丸メガネ目の前のキューブの角を左に進んでから次の角を右や」
四号機の粗暴な陽動が始まった。三号機は四号機から指示を受け取ると、慎重に動き始める。
なるべく、敵に気がつかれない様に歩み遅く。ソロソロと動き出すと、四号機の指示通りに角を曲って行く。とは言え、その慎重な動きからは彼の不安が見て取れた。
彼のソロソロとした動きは若干の足音はすれども、隊長が走りだした時のような騒音を出す程でもなく。青いTSCも彼が隣の通路を入る事に気が付く余地もなかっただろう。
暫く歩き、やがてキューブを挟んで敵と横一列に直線状に並んだ時だろうか、微かにしか鳴らない三号機の足音に青いTSCが気が付いたらしく。
地面に金属を擦り合わせながら、隣で鳴る微かな音を頼りに自陣の方向へ動き始めた。
三号機が歩く通路へと敵が迫って行く。
だが、それもすべて作戦の内、計算された事なのだ。今まで正面を向いていた敵が、他の通路を見に行く為に俺たちから背を向けた。そう、この状況を俺達は待ち望んでいたのだ。
徐々に進んで行く青いTSCは、俺たちから距離こそ離れて行くものの、徐々に狙える範囲が増えて行った。
そんな敵のTSCを見てだろう、隊長から通信が入って来た。
「今チャンスなんじゃないの?」
確かに絶好のチャンスだ!
先ほどまでは微かにしか見えなかった頭部が今は肩まではっきりと確認できる。
やがて、肩までし確認できなかった青いTSCは今じゃ上半身全体を確認する事ができる状態にまでなっていた。
「皆さん、やりますか?」
その合図を待っていたかの様に、擬しそうにライフルを構えていた四号機がライフルの引金を引いた。そして、その四号機の行動に吊られるように隊長もライフルを構え引金を引くと、敵目掛けて射撃を開始した。
最後に二人の行動に後れを取らないよう、俺も射撃へと参加し敵へ一斉射撃という弾丸の雨を浴びせる事に成功したのだ。
敵へ浴びせられた弾丸は十二発、標的への命中確認をする前に敵の青い機体は膝を折ると地面へ崩れるように倒れこんだ。
どうやら今回は無事倒す事が出来たみたいだ。
俺の隣で倒れこむ敵を見たのだろう、隊長の機体が、また小さくガッツポーズをしているのが見えた。
「やったね、一号機君」
「そうです、やりました……」
十二発打ち込んではいたものの、三人合わせて命中したのはたったの四発だ、その中でも一発頭部に命中したのが大きいらしい。
一斉射撃には参加していた隊長も結局の所、天井を撃っていたのだから、万が一、倒し切れなかった時は隊長を突き落として逃げる覚悟だった。