赤いサイクロプス
こちら側の残存勢力は三号機と動かない二号機。敵側は五台すべてのナンバーが表示されていた。
更に、残存勢力の画面を見て俺は目を疑った。
「ランチャー撃ったの……隊長機じゃないですね……」
「えっ? なんで? 隊長機以外使えないんじゃないの?」
「そうや、使えるっちゅう事は隊長って事になるんやろ」
「ナンバーが違うんですよ、TABキーおしてもらっていいですか?」
その後、二人は俺の言った通りに「TAB」で戦力を確認したらしく、それを俺に報告し終えると、俺は話の続きをした。
「えっとですね、俺達の全面に居るのは敵側の四号機なんです」
「四号機が隊長なんじゃないの?」
「それは考えにくいな、ウチらと状況が同じやとするなら。敵さんの隊長は零号機になるやろ」
「そんなものなの? もしそれが本当なら敵側は全員重装備って事になるわね」
「ええ、そうですね。それを今から確認しに行きます」
「どないするっちゅうんや? わいらもう動けへんやろ?」
「たとえ、動けなくても誘導はできますよ」
俺はそっと言った。たぶん俺の口元は軽くにやけていただろう。この状況下に慣れて来た事もある、それ以上に自分がやられた事でふっ切られた事の方が強いだろう。
「隊長、今映ってる映像って三号機さんのカメラですよね?」
「えっ? 画面切り換えることできるの?」
「間抜けやな、ド素人が。トリガーボタンで視点切り替えんか」
俺達のやり取りの最中、三号機はずっと俺達の残骸を見詰めていた。動かなくなったサイクロプスを眺めていたのだ。
時間にして一分半、その間も敵は俺達が倒れてる通路より奥に来ようとはしなかった。
その疑惑は、俺の頭にもう一つの電流を流す事になった。
「切り替えたは、こんな機能があったなんて……」
隊長は、俺達に言われた通りに視点を切り替えてくれたらしく、その事を俺達に伝えてきた。
どうやら移動系以外の操作は苦手のようだ……。
――知らないだけか。
「それで、どうしたの?」
「この会話って三号機さんにも聞こえていますか?」
「ええ、問題無いはずよ。コクピット内でのやり取りはサイクロプスを起動させてなくてもできる仕様になってるはずだから」
「それが、どないしたっちゅうねん」
四号機の煙たい声が通信へと割り込んできた。
「敵のリーダーを確かめに行きましょう、少し気になる事があるんです」
「無謀やな、三号機一機で五体相手にどうない立ち回れっちゅうんや。挟まれたら終わりやで」
「立ち回りの心配はありません、これ以上敵は攻めてこないですから」
「言ってる意味が分らないわ、その根拠はどこにあるのかしら」
「根拠なんてありませんよ。ただ感というか、そんな感じがしたんです」
「まあ三号機君しだいなんやろな、無謀な感を信じるんも。それに敵の戦力は確かに気になるところやし」
「そんな事許せないわ、隊長として断固拒否します」
隊長は以外にも俺の提案を拒否する姿勢を見せた。まあ無理も無い話しなのか……。隊長という手間、仲間一人の命であっても犠牲にする事はできないのだ。
だが、命というのであれば俺達にだって言い分はある。訳も分からず適正試験に参加させられ、試験に落ちれば即駐屯地移送。その後戦争ともなれば俺達の命は戦場で保障されないというじゃないか。
「隊長、俺達にも命がかかってるんです、隊長にとってのボーナスと同じくらいに、駐屯地に行くのはゴメンです!」
気が付けば、通信を出していた。
そして、その通信内容にすぐさま隊長は返信を返してくれた。
「仮に、私がOKを出したとしても三号機君がOKするとは限らないわ。それに彼喋れないし」
「なんや。三号機君から承認を得れば良えんやな」
「どうやって取るつもりよ?」
「隊長はちょっと黙っとき、今回やられたのだって元はと言えばあんたのせいやないか。その非を責めない一号機君は大した奴っちゃで」
四号機の発言を最後に、その後隊長からの返信は返ってこなくなった。コクピットの中でショゲているのだろうか。
「隊長は、三号機さん次第と言いました。でも、付いて来るだけの彼をどうやって喋らせるつもりですか?」
「付いて来る事ができるんわ、スピーカーが生きてる証拠や。それなりに説明すれば合図地くるらいはもらえるんとちゃうか」
そう言うと、四号機は三号機へと名指しで通信を入れた。
本当に四号機のパイロットが言うとおりに、スピーカーが生きているのであれば、この時点で何かしらのアクションは欲しい所なのだが。
俺達の話している間も三号機はその場を動く事をせず、俺ら敗者の残骸をじっと静観していた。
話し合いの最中も敵の足音はすれども、三号機の居る通路まで来る様子はない。
「そいじゃ始めるぞ。良く聞いとけ丸メガネ、作戦に同意する場合は上下に視点を動かすんや。嫌な場合は、左右や」
四号機の提案は恐ろしく単純なものだった。その発言にあっけに取られていたが、考えてみれば恐ろしく効果的な通信方法ではある。
まあ、聞こえている事が前提になるのだが。
その後、暫くの沈黙が続いた。やはり音声は届いていないのだろうか? そんな状況に隊長が痺れを切らした様子で、通信を入れてきた。
「ちょっと、いつまで待たせるのよ? ラウンド終了まで後1分も無いわ」
「やっぱ、無理なんですかね? コクピット壊れてるのかも」
半ば諦めムードだった、やはり三号のコクピットには重大な欠損がある、俺はそう思い始めていた。
そんな時だ、三号機の視点に合わせているはずの画面が大きく上下に動いたのだ。
そして、その状況にいち早く気が付いた四号機がすぐさま通信を入れた。
「なんや、やっぱ聞こえ取ったんか。わいは信じてたでー」
上下に動いたと言う事は、作戦に同意したという事なのだが。なぜ合図を返すのにこれ程までの時間がかかったのだろうか? 多少の疑問は残る……。
「見たか、隊長決まりや。はよ支持ださんか!」
「えっ、ええ。わかったわよ。で、どうすれば良いのかしら?」
隊長の発言から聞いてもわかる、突然の状況に隊長は動揺を隠せない様子だ。
「いいですか、このままの通路を進んだらだめです、中央突破で行きましょう」
三体の抜け殻を前に、最後の兵員であろう三号機は唖然と立ち尽くしている。
今や最後の兵員、三号機、彼がこの状況で敵に倒されたのなら、その時点でブルーチームの勝利がほぼ確定するのだ。
そんな状況下で四号機の通信が入ってきた。
「丸メガネ、今体力どれくらいやねん、画面右下に書いてあるやろ」
四号機の必死の発言は、虚しく中を舞った。やはり聞く事はできても喋る事はできないらしい。
「やっぱり無理なんか〜」
四号機の発言が終えて直ぐ、隊長から通信が入って来る。
「いい。さつき、一号機君が言ったみたいに中央突破で攻めるからね、通信聞いてたんならキビキビ動く!」
その隊長の声を聞いたのだろう、また三号機の視点が上下に振れるのを確認できた。納得したって事なのか。
やがて、三号機は敵が居る角の通路から離れ、中央一本道を選ぶと、軽快な足音を響かせながら通路を突き進んでいった。
途中キューブの隙間から米軍ライフルを持った青い機体を確認する事ができた。
咄嗟に、肩に書いてある型番を確認する、やはり先程の奴とは違う型番だ。
続いて銃器の先端を確認すると案の定グレネードランチャーが換装されていた。
やはり敵の戦力は俺達より遥かに有利なのだろう。素人相手に容赦の無い……。
敵も三号機の赤いサイクロプスに気が付いたのだろう、三号機目掛けて銃器を構えた。だが、三号機がすぐさまキューブの影に身を隠した為に発砲して来る事は無かった。
俺はその光景の一部始終を観察すると、全員へ通信を入れた。
「やはり変ですね。敵側が一定以上の地点から攻めて来る気配がありません。それに先程同様隊長装備でしたよ」
「ほんまかいな。一号機君はよう見とるなー全員グレネードって事かいな」
「なんとも言えないですけど、そうなると思います」
俺達の会話中も三号機は隊長命令を忠実に守り、中央を前進していった。
やがて80メートルほど前進した時だろうか、ようやくキューブの森が終わりを継げ、正面にブルーチームのスタート地点を目視できる距離まで進む事ができた。
「ここまで来たのは良いけど、この先どうするつもり?」
俺が三号機の視点で周囲を確認していた時だ。今まで黙り込んでいた隊長から通信が入って来た、そして、俺は咄嗟に隊長へと返信を返していた。
「ええ、ここまでは想定内です。問題はここから先……」
俺が喋っている間も三号機は周囲に敵の気配が無いかをキョロキョロとカメラを動かし観察している。
そんな中、三号機は何を思ったのか、ブルーチームのスタート地点へと歩を進めたのだ。
「――もし敵がいなければバックアタッ……。ちょっと待って!」
それは迂闊としか言い様が無かった。ノコノコと敵の陣地へ歩き出した三号機のカメラは、左右を見渡すように動いていた。
そして、三号機のカメラは敵陣地の右角へと向いた時にある物体を映し出した。
それはとても青く、自分達の陣地だというのに片膝を地面に付き、小さい姿勢で構いるのだ。
俺が青い機体のナンバーに気がついた時には、敵の機体は自分の獲物に指を掛けていた。
咄嗟にナンバーを確認する。
隊長と同じ0ナンバーだ。
俺は慌てながら右小指のボタンに手を掛けて、通信を入れようとした。
そんな時。
スピーカーから乾いた銃声がコクピット内へと響き渡っていた。誰もがトラウマを覚えるような重く突き刺さる音。そして、銃弾を食らった三号機の機体は、遥か後方へと突き飛ばされる。
今まで捉えていた青い機体が点の用に小さくなって行く、その後三号機の機体は地面でバウンドした為に、画面がグラグラと揺れた。
その後、暫くして三号機は動かなくなった。




