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ほの暗い地下施設で……

俺達四人はこれからテストを受ける、内容も知らされていない。出来る事なら内容くらいは知りたいものだが、先導する自衛官の口は思いのほか固かった。

 そして、激動のホールに背を向け薄暗い通路を自衛官に先導されるまま歩いて行くと、前方にオレンジ色のエレベーターがあるのが確認できた。

 

「何や、上にでも登るんか?」

「それは違う、これから下に行くんだ」

 

 ――どうやらこの施設内にはまだ地下があるらしい……。

 

 俺だけじゃない、皆驚きの表情を隠せなかった、ここまで潜って、更に地下だ。深くへ潜れば潜る程、心の中の不安が増大していく様だ。

 その後、暫くして。エレベーターが俺達の居る階へと到着した。

 徐々に開くエレベーターに半ば強引に押し詰められると、自衛官は地下の三階のボタンを押した。

 

「ずいぶん潜るんやな?」

「ああ、そうだ」

「つれないのう。ろくに世間話もできへんのか」

 

 関西弁は軽く舌打ちすると、次のターゲットを探す素振りを見せた。

 

「あんさんは、大学でなにやってたんや?」

「ん? 俺ですか?」

「お前しかおらんやろ。俯き顔の丸メガネに、陰気な黒フード、無愛想な自衛官、他に誰に喋れちゅうんや」

 

 どんよりした空気の中、下へと降下するエレベーターの中で若干お喋りな長身は俺に声を掛けてきた。

 

「俺は大学でプログラム関係勉強してたけど……」

 

 今となっては何の為に目指していたのか分からないプログラマーの儚き夢。それは、宿舎に籠る生活を送り、ゲームに没頭するという現実からの逃避行で遭えなく幕を閉じた。もしもう一度チャンスがあるのなら、徴兵期間が終了した時にでも目指してみようか。

「わいわなー、地質調査を大学で専攻してたんや。やっと単位も取れて、就職先も決まった。そして来年からは社会人やっちゅうのに、この有様や」

 

「……僕だって同じ様なものですよ」

 

 今まで俯き顔だった、丸いメガネの少年が会話へと参加した。目に涙を溜めていたために、少年の無念さがヒシヒシと伝わってくる。

 

「今年から夢のキャンパスライフだったのに、こんな事になって……」

「おら、私語は慎め。地下三階だ、着いたぞ」

 

 俺達の些細な思いで話は、自衛官に一喝され儚く幕を閉じた。

 気が付けば、エレベーターは口を開け、その先には仄暗い通路が大きく広がっていた。

 通路の中心をオレンジのラインが左右に分ち、等間隔に番号の振られた重圧感漂う扉が並んでいた。一、二、三と続く扉。廊下の照明が暗いせいで、通路の一番奥が見えない。

 俺の視界からは三番と扉に書かれた部屋を視界に入れるのがやっとだった。実際何番までこの部屋はあり、仄暗い廊下は何処まで続いているのだろう……。

 エレベーターから足を踏み出す事を危惧する俺達を余所に、頑丈なブーツの音を響かせながら、自衛官は廊下を突き進んだ。

 

「ぼさっと立ってるな、早く降りてこい」

 

 そう言う、自衛官は三番の扉の前で俺達に声をかけていた。という事は三番の部屋で何かをやるのか?

 渋々エレベーターを降りた俺達は、やっと自衛官の後ろに追い付いた。俺の居る位置からは、「六番」と書かれた扉を確認する事ができた。が、やはり、通路はまだ続いているようだ。

 

「君達にはこれから、三番演習場で採用試験を受けてもらいます」

 

 自衛官は俺達にそう告げると、扉横にある赤いボタンを押した。その動作と連動するように、頑丈な鉄で造られた扉が徐々に開いて行く、完全に開き切った先を見て俺は唖然とした。

 演習場、それは本来、兵士達が訓練をするために造られる、仮想の戦場の事だ。敵を模した的があったり、凸凹に作られた荒れ果てた荒野だったりするのが普通だ。

 だが俺達の目の前に姿を現したのは、そんな広々とした世界ではない。

 直径二メートル程、黒い卵型の大きく得体のしれない機械が十五台あるだけで、とても演習場というには程遠い代物だ。

 それに、コクピットにはデカデカと数字が振られているではないか。

 1を最初として15が最後か。

 そんな中で、数人がこの卵型の機械を弄っていたが、自衛官とは異なる服装をしていた為に軍に雇われた技術者である事は用意に想像できる。

 

「あっ、お疲れ様です」

 

 技術者の一人が自衛官に挨拶すると、他の機械を弄っていた技術者達も集まってきた。

 

「次の試験者ですね」

「そうだ、時間も結構押してるから早めに始めてくれるかい?」

「大丈夫ですよ、今調整終わった処なんで」

 

 何やら、自衛官達と技術者が話している。本当にこの演習場で試験をやるのか……。

 何をやらされるのかまるで想像がつかない……。

「じゃあ、灰色シャツの君前に来てくれるかな」

「俺ですか!」

 

 この状況下で、徐に俺は技術者に呼ばれた。特に、拒む理由も無く、遭えなく俺は技術者の前に出る事になった。

 

「ここにある機械、全部サイクロプスのコクピットだから」

「えっ、もしかして俺がアレを動かすんですか!」

「そうなるねー。これからチームを組んで模擬戦をやってもらうんで」

 

 一番と番号の振られたコクピットへと、俺を誘導する技術者は。コクピットの前に止まると、コクピットのハッチを開け、俺の腕を掴み中へと放りこんだ。

 

「それじゃあ頑張ってね」

 

 一言、俺に軽口を叩く技術者は、既にハッチの開閉用レバーに手を掛けていた。

 なんて、手際が良いんだ……。

 

「ちょっと待ってください、操作方法だって説明されて無いのに。いきなり操縦なんて出来るわけないだろ」

 

 度重なる理不尽な行いに気が付けば、自分の口調が強くなっているのに気がついた。

 元来、忍耐強い方ではあるが、ここまでされて、黙っている俺ではない。

 開閉用レバーに手を掛けたまま、目を丸くする技術者は、俺の言葉を聞いて急に笑い出した。

 技術者の予想外の行動に、今度は俺の目が丸くなった。

 俺は少しも面白い事を言った覚えはないのだが……。

 

「あ〜、高島さん、説明しなかったんだ。昨日は俺達集めてリハーサルやってたくせに」

「え、あっ? ん?」

「ごめん、ごめん。一通りの操作方法は自衛官からもらった配布資料に書いてあると思うから、それ見てね」

 

 阿呆面で、必死に話しを理解しようとする俺に対して最後の「資料に書いてある」という言葉は痛恨の助けとなる。試験が開始するまでに少しばかり時間があるのなら、資料を見て操作方法だけでも飲み込もう。

 

「それじゃ、検討を祈ってるよ」

「ありがとうございます」

 

 その後、俺をコクピットに押し込んだ技術者は、開閉用レバーを操作したのだろう。コクピットハッチは電動シャッターさながらの重量感ある音を響かせると、俺を完全に外から孤立させた。

 

 ――技術者は資料に全て書いてある、だからそれを見てもらえれば分かると言った。だが現状を見てみろ。俺は小窓一つ無い黒卵の中だ。光一つ差し込まない真っ暗闇の中で、地が読める人間が居るんだったら俺に教えてくれ! 今直ぐに……。

 

 俺は、辛うじてコクピットのイスに腰を掛けている。光一つ差し込まないコクピットの中で、これから始まるであろう試験を待っているのだ。

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