電送機兵サイクロプス
「電送機兵サイクロプス」機体の操作方法及び存在意義。
サイクロプスの動力源は電力である。それは高島の質疑の時間に自分で説明した事だ。
そして、サイクロプスの駆動方法は空気である。全速力で走るにも、腕の先の十本の指を動かすのも全て空気で動く。空気を送り込む事で伸縮するゴム繊維を使い、人間の筋肉の動きを再現する、その全てを可能にする、メインポンプは胸部に埋め込まれている。
まず初めに電力の供給が開始されると、メインのポンプが作動し空気を生成、その後動作に必要な部位に空気が送りこまれる仕組みとなっている。それにより従来の油圧駆動型ロボットではありえない柔軟性と瞬発力を生み出す事が出来るのだ。
ただ、現段階ではまだ実用に向けての実験段階であるため、クリアしなければならない課題もいくつかある。
クリア課題の一つとして上げる事に、地下での活動について、サイクロプスは関与する事が出来ない。現行ロボットは衛星からの電送でのみ駆動する仕組み故に、地下、あるいはドーム状で覆われた建物の中では衛星からの電力供給が滞るため十分に活動する事が出来ない。
更に、ゴム繊維を可動部に使用しているため、耐熱性能はそれほど高くはない、火炎放射機などの重火器を使用されれば一溜りもないだろう。
以上がサイクロプスの弱点である。
直、今回君達が見たサイクロプスは小型のバッテリー使用で動くタイプ、駆動時間は凡そ十分といった所。
更に、演習施設内でのみ電力供給がなされる演習機も施設内に存在する。
以上
サイクロプス配布資料より
檀上から高島とマーキスが姿を消して直ぐの事、試験が開始された、一回自衛官が人の名前を呼ぶ度に、四人の若者が姿を消していった。俺はと言うと、その時間を利用して、皆に配布されたであろう、パンフレットに目を通していた処だ。
「――正道進一前へ出ろ」
俺はその言葉を聞いて、大きく返事をすると、俺の名前を呼んだ自衛官の元へと歩を進めた。
――何としても、生身で戦場に行く事だけは回避しなければ習い、まだ俺は青春を謳歌していない。どうせ家に帰れないのなら、この施設に残ってやる!
気が付けば俺の中に異様な熱意があるのを感じられた。昔からロボットは好きだ、軍隊だってそれほど嫌いなわけではない、だからといって「戦争をやりますか」と、聞かれて「はい」と、答えるほど呆けているわけでもない。この施設内に運ばれた学生の中で戦争を肯定する人間はきっと一人としていないだろう。
「それじゃあ、みんな集まったみたいなので、行くとしよう。私が先頭を歩くので、皆、私の後ろについてくるように」
屈強な肉体を持つ自衛官は、大きく歯切れの良い声が特徴的だった。気が付けば皆そんな感じか、朝一人だけ例外はあったが、きっと新兵だったのだろう。
「おっさん、これから試験やるみたいやが、いったい何やらされるんかくらい説明してくれてもいんじゃないか?」
「そうですよ、急に運ばれて抜き打ちテストなんて理不尽じゃないですか」
自衛官が先導しようとした時、俺の前に居た連中二人が、自衛官へと質問を投げかけた。半ば囚人の護送風景ではあるが、だからといって、今の今まで、俺達が何をさせられるのかは知らされていないのだ。
「ふむ、確かにそうだ、私の口から説明したい所ではあるが、生憎テスト内容は機密事項。私の口から簡単に口外する事は出来ない」
「なんや、使えんのう」
自衛官の意見は最もである。癖のある口調で、長身の男は悪態を垂れていた。
もう一人、背の小さい、丸メガネの少年も話していたはずだが。返ってきた言葉が期待したものとは違うせいで、かなり落胆した表情をみせた。
俺と一緒にテストを受ける奴にもう一人、黒いフードの少年が居た。黒いフードの影響で陰気に見えるが、実際はまったくわからない。耳にイヤホンを付け、今流行りのMP3プレイヤーでなにやら音楽を聞いているみたいだが……。