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壇上の二人-3

俺はその人型と檀上の二人を暫く見つめていたが、やがて、高島の笑みの理由を理解した。

 今まで、まるで動く気配を見せなかった人型は、腕を起点として、動作を開始しする。

 檀上のアレはロボットなのか……。

 ロボットだとしたら……起動性能はどれくらいなのか……。

 冷静に状況に順応しようとする俺を余所に、周りはやはり冷静ではいられなかった様だ。

 今まで大きな置物と思わされていた、人型が、急に動き出せばだれだって驚くものだ。恐怖に怯え悲鳴を上げる物や、あからさまなオタク風の男は歓喜の叫びを上げていた。

 二極化するホール内の空気を余所に、サイクロプスはゆっくり前進すると、檀上脇に設けられている階段を一歩ずつ確実に降りていった。

 一歩ずつぎこちない歩行で、ホールの中央通路へと歩み寄ると、前方を向いて止まる。

 

「あー、それじゃあ予定通りに。例のプログラムを頼むよ」

 

 高島がトランシーバを使って、また何処かへ連絡を取っている様だ。この人型、二メートルはあるが明らかに搭乗型のロボットではない。横の厚さがまず薄い、それに加え、人で言えば骨と筋肉だけ故に、腹部はスカスカ、後ろの演台が腹部から伺う事さえできる。

 高島がトランシーバでの指示を出し終えたのだろう、トランシーバをまた腰にしまうと。檀上真下の人型は徐々に行動を開始した。

 一歩ずつ確実に動く中央通路の人型は、バランス良く左右の腕を振り子の様に動かし始めると、徐々に歩幅と動作速度を速くしていった。中央通路からちょうど出入口までの距離は約100メートル、気が付けば、陸上を走るアスリートの様に一直線の通路を全力で走っていた。

 機械で造られているというのに、その速さは一目見ただけで、人類が敵う相手では無い事を俺達へと知らせた。

 やがて中央通路を半分まで走った辺りで、烈風に靡く一片の羽の様に空中へと飛び上がった人型は、やがて空中で一回転、回り終えると華麗に着地した。

 優雅な飛翔に目を奪われたホール内の学生達は、皆息を呑み一言も喋ろうとする者はいなかった。

 日常とは大いに掛け離れた光景に唖然としているのだろう。

 

「どうだね? 私とアメリカ軍とが協力して開発した極秘戦術兵器、サイクロプスの凄さは」

 

 悪魔に魂を抜かれたが如くに固まる一同に、声高らかに檀上の科学者は吠えた。

 

「これが今の日本の実力だ、機械兵士とでも言うかね? 特殊カーボンでコーティングされた骨格に二百四十もの人口筋肉

 を張り巡らせて作られた、この機械兵士の運動能力は実に人の3倍以上、外装を付ける事により得られる耐久力は銃弾十万発を食らったとしても壊れる事はない」

「こんな物を見せて……、どうしようって言うんですか……」

 

 自慢げに話す高島の話を遮るように最前列の一人が高島へと質問した、高島はその問が大きな波となり襲ってくるのを回避すべく、素早く質問に応じる事となった。

 マーキスよりは場慣れしているみたいだ。

 

「良い質問だね、君達にはテストパイロットになってもらうよ。これから試験を受けてもらい適正を判断した上で入隊させるかを決める」

「他にも私に聞きたい事がある人は今の内に聞いておくと良い」

 

 高島は大きな声で周りへの質疑を促した、話を円滑に進める措置だと思ったのだろう。とは言え事態はそう簡単には進まない、下手な質問をすれば何が返ってくるかわからないのだから。

 そんな中で、一人の少年が手を挙げた、前列の学生だ。マイクを親切に渡してくれるアシスタントもいないわけで、後列の人間が大きな声をだしたとしてもちゃんと届くか分からない、そういった面を見れば前列の人間は質問を投げかけやすい環境ではあるが……。

 

「も……、もし。テストに合格できなければ家に帰れるんですか?」

「うむ、こういった発言が出てくるのも想定の範囲内ではあるがね。まず、結論から言えってしまえば採用でも不採用でも君達は家には帰れないよ」

 

 落胆する少年を余所に、今度は一人の少女が手を挙げた。

 

「これから、試験をやるみたいですけど、何をやるんですか?」

 高島に指名され、自分の席で起立し喋る少女の声は実に聞き取りやすかった。それに、この追い詰められた状況だというのに、活路を切り開こうとする姿勢には素直に好感がもてる。

「うむ、良い質問だ。だが私の口からは何も言えない、極秘事項にしておいてくれと横の軍に言われてるからね」

 だが、高島の口は思いのほか固く、試験についての情報はあまり期待できそうになかった。それどころか、高島の後ろに立つマーキスは「試験」という言葉に対して陰気な笑いを上げていたのだから。このテストには恐らくそれなりの裏があるのだろう。

「テストにつては何も言えないがね。一つだけココに来た学生達には共通点がある。それは、皆電脳系の大学に通っているという事だ。君達のゲイム脳を大いに使わせてもらうよ」

 そう言うと、今度は高島が笑った。

「ゲイム=ゲーム」なのだろうか?

 だとすると試験はPCを使ってゲームをする事なのか?

 困惑する学生達に向けて高島はまた喋り出した。

「採用でも不採用でも家に帰る事は出来ないが、こちら側が採用した場合、それ相応のメリットはある」

 科学者の言ったメリットという言葉に耳が動く。

「もしもの話だがね。本当に戦争になった場合君達の生身での介入は免除される事になっているよ。不採用の場合は各駐屯地に移送され、最悪戦争に介入する羽目になる」

 ――裏を返せば不採用になった場合、生身で戦場に立てって事じゃないか

 

「さて、他に質問は? 質問はないかね――」

 

 伸びやかな声で高島はまたもや質問を促していた、その声に答えるように数人の学生が手を上げ始めた。きっと二人の学生が無事に席に着いた事で、この男は自分達にとって無害であると認識したのだろう。

 

  *

 

 高島質疑はその後も長く時間を取られ、続けられる事となった。

「生身での介入は免除される」という発言から派生したのだろう「どうやって操作してるんですか?」という質問が飛び出て来た。この質問に対して高島の答えはこうだ。

「このロボットは完全な無線操作方式で遠隔操作している。私の前方に立つ彼も例外ではない、彼も遠隔操作だ。パイロット諸君はここから少し離れたコクピット施設でこのサイクロプスを操作してもらうよ」

 また「動力源は――」という質問もあった、確かにそうだ。バッテリー用のランドセルも見当たらなければ、動力源を詰め込めそうな腹部はガラ空き、胸部のスペースだけでは駆動時間に制限がでるだろう。

「このサイクロプスが画期的なのは、運動能力が人の三倍などではない。そんなもの幾らでも作り出せる。真に力を注いだ場所、それは電力の供給方法だ、現行の機械はバッテリーを詰め込まなければ動くことさえできない。だがサイクロプスは違う、空高く宇宙に打ち上げられた人工衛星が宇宙空間で造り出した電力を、電磁波に乗せて地上の機兵達に供給する。これによって、サイクロプスは無限の駆動時間を得る事ができるのだ」

 その後も数多い質問に高島は快く答える事になったが、時間を気にする素振りも見せていた。

  腕に巻いてある、金色の時計に目をやると「後は自衛官が渡す施設内の配布資料をみてくれるかね」と言って、演説を絞めた。

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