(三年前)
(三年前)
そこは地下、研究施設内の応接室と言った具合で、二人の男は神妙な面持ちで向かい合い座っていた。
一人は小柄で白髪交じりのボサボサとした頭に白衣を着た日本人。その対岸の席で構えるのは、褐色の肌に軍服を身に纏った男が一人。だが日本軍の軍服では無い。
軍人は机に自分が持参した資料を散らかすと、自前の渋く、低い声で、白衣の男へと声を掛けた。
「私はアメリカ陸軍所属マーキス中将だ」
「そうかね、マーキス中将今日はよろしく頼むとするよ」
「早速、本題に移りますが、先日話した案件は受け入れてくれるのでしょうか?」
すべてはこの軍人の一言から始まった。
「君は確かマーキスと言ったね。私は軍事の経験がないから何とも言えないが、この機械達をどうするつもりだね?」
「高島さんは知っていますか、兵士一人が戦場で命を落とすたびにどれだけの資金がかかるか」
「そんな事、私は考えた事もないよ、そもそも日本は第二次世界大戦以降、戦争とは無縁の国だったからね。……無縁にさせられていたと言うべきかな」
高島の言葉を聞いて少しばかり溜息を付くと、マーキスは話を続けた。
「階級や地位によって異なるが、最低でも一千万はくだらない」
「それは、また、大層な金額だ。私の退職金より高そうだね」
軽口を叩く高島に対して、マーキスの目が少しばかり鋭くなった。
「ああ、すまない」
高島はその鋭い視線に多少なりと、たじろぎはした物の、直ぐ話の方向を元に戻した。
「構わないよ、私にこの施設を任せてくれるのならね。三年後に千台は作ってみせようじゃないか」
「あなたの口からこうも安々と、容認が出るとは思いませんでしたよ。日本人は平和主義者が多いと聞いていたので」
「ロボット開発は幼い頃からの夢でね……」
夢を語る高島の表情はそれ程明るいものでは無かった。
「それに千台ですか、これも凄い」
「唯、問題があるな」
「それはどういった問題で?」
「電力の供給方法、それに操作方式だ。搭乗型は理想じゃないし……」
「電力の供給方法はこちらで検討中の物があるので問題無い。操作方式は出来る事なら人工知能を積んで自律させよと大統領からの御達しだが……」
「人工知能だって!」
高島は、マーキスの口から出た言葉を聞くと、声を荒げ、目を丸くした。
「私はロボットは作れても人口知能は作れないよ。……専門が丸で違うじゃないか」
「あぁ、それはあくまでも理想だ。無理にとは言っていない」
「そうか、なら良いがね」
暫く話込んでいた二人ではあったが、高島がマーキスの要望に答える形で話し合いの幕は呆気なく閉じる事となった。
マーキスは持参した資料を畳こむと、椅子から立ちあがった。
「今回は大統領に良い報告が出来そうだ」
席を立つマーキスへ向けて、高島は今とばかりに声を掛けた。
「マーキス中将、最後に一つ良いかね? 軍人としての君に聞きたいのだ」
「なんですかな?」
「兵器は何故生まれるんだね?」
高島の意味深な発言に、マーキスは無表情なまま、軽く溜息を付いた。
「それは、戦争抑止力のためではないか」
「ははっ、それは君達の本心じゃないだろ?」
高島は薄ら笑いを浮かべながら、マーキスへ言葉を返した
「高島さんがどんな答えを望んでいるかは知らないが。時に兵器は経済の潤滑油になる事もあるのですよ」
「大統領に報告しなくてはならないので、私はこれで失礼するが、高島さんはどうなさいますかな?」
「この施設を少し見て行くよ、明日からココで働くかもしれないからね。施設の名前はなんて言ったかな?」
「メルトダウンだ」
「実にアメリカらしい発想だね」
「御託はまた聞ますよ。時間が無いですので、多忙なのです私は」
重量感漂う木の扉はその後ゆっくりと閉まった。
ただ一人施設内へと残された男は、応接室にある地上へと繋がる唯一の電話へと手をかけると、慎重に番号を入力した。暫く流れるコールの音の間、ゆっくりと呼吸を整える。やがて、電話の先で女性の声が響いていた。