秘密基地へ行こう−1
バスが走り出してから既に二時間近く、早い起床が聞いて気が付けば眠っていた、蛇の鎌首のように直角に曲がりの頭を擡げると、俺は慌てて外を見た。
既に周りには道路など無く、鬱蒼と生い茂る山道を疾走している。何んてアウトドアなバス何だ……。獣道程の幅しかない細い山道だというのにまるで、怯む事無く一定のスピードを保っていた。
時折枝葉に擦れ、ガサガサと音を立てながら。砂利を踏んで前後に揺れながら進んで居た為に、俺以外の寝ている連中も音、振動に驚くと、寝ぼけ眼を擦りながらゆっくりと起き上がった。
外を見回した所で基地など何処にも無い。それ所か、切り立った断崖の目の前で急にバスは停車してしまった。
バスの運転手は運転席に設けられている無線機を手に取ると何やら連絡を取っている様子、もしかして道に迷ってしまったのだろうか……。
「シグナル・オールグリーン。周辺に不審者並びに不審物の類無し。乗客も健康そのものだ、何も問題無い、正面の入口を開けてくれないか?」
「通信信号の到達を確認、通信傍受の痕跡は無し。了解した入口のロックを解除する」
電子音が途切れた直後、地の底から響きわたる様な地響きと共に正面からオレンジ色の光源がバス内へと差し込んできた。光源に一瞬奪われた視力が徐々に回復していく。
やがて、差し込む光源へ視線の先を移すと俺は目を疑った。今まで構えていた絶壁はそこに無く、俺の目の前に姿を現した光景は、大きく口を開けたトンネルだ。
どうやら、絶壁は一般人、あるいはテロリスト達に対するカモフラージュの様だ。とはいえ、ここまでして隠す必要があるのか? 俺のイメージで言えば駐屯地なんてもの、そこら辺の住宅街にポツンとある施設で、一見してみれば特殊な専門学校とまるで変わらないのに。
「感謝する。これより秘密施設への移送を開始しする」
「了解、検討を祈る」
「こちらこそ了解した、中の通路は入り組んでいる上に道が狭い、なるべく慎重に運転するよ」
俺の前方ではバスの運転手が未だ、無線での連絡を取り合っていた。
そして、連絡が終了したのだろう。バスは永遠とも思える絶望への運行を開始した。
暫くの間は直進が続く、周りが思いの外静かな為、漏れ聞こえた無線の内容によれば中の通路は相当入り組んでいると言っていたはずなのだが、なんて事はない。トンネルはバス一台が余裕で通れる程の広さを保ちながら、目的地へとオレンジの光源が誘っていた。
やがて俺達の前に姿を現したのは……行き止まりだ……。
唯の行き止まりではない、赤く光る誘導灯を持つ自衛官が二人行き止まりの前に立っていた。多分彼らが先ほど同様に観客の肝を抜くマジックを見せてくれるのだろうけど。
「学生50名移送を頼まれているはずなんだが」
「あー、ちょっとまってくださいね、今確認します」
運転手に一言告げつと、誘導灯を持つ自衛官の一人が行き止まりの影へと消えて行った。良く周辺を見渡すと、隅っこに扉があるのが確認できた。頭上に照明があるとはいえ、発光量の少ないオレンジの照明では隅々を注意深く観察するには少し役不足だ。
「ナンバープレートの照合が終了した。これからエレベーターを起動する、しばし待て」
俺はこの耳で確かに聞いた、エレベーターという単語を。
これから何が起こるのか間ったく分らない。
今俺達は巨大なトンネルの中に居る、という事は山の中だ、俺の見解が正しいのなら、これからエレベーターを使い山の頂上を目指すのではなかろうか。
俺が、無駄な当たりを付けている最中にも作業は進み、気が付けば二人居た自衛官の姿はそこには無かった。どうやらもう一人も扉の奥へ進んで行った様だ。
やがて、赤い光が一定間隔でバスを包む、けたたましいサイレンの音が周辺に鳴り響くと、バスの退路を巨大なシャッターが塞いだ。
四方を壁に囲まれた事と、サイレンの音に赤い回転灯。人間の防衛本能を擽る細工に、少しばかりバス内がザワメキだした。
そして、俺達の不安を他所に、動きだしたバスの地面が沈みだした。どうやらエレベーターが起動したのだろう。
俺の思惑を余所に地下へと進みだすエレベーターは、まるで地獄の淵の様で、俺の心を尚不安にさせた。