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徴兵開始!−1

「――私を恨むのならお門違いも良い所、恨むのなら脆弱な自分たちの国家を恨みたまえ」

 

 

 降りしきる閃光の中、俺はイスに座っていた。

 折りたたみ式のパイプイスに座る事なんて大学の卒入学式以来だ。

 他にも俺の周りには大勢の学生がいる、大型のホール内で俺は丁度ホールの中央辺りに座っていた。

 ホール、俺の前方には壇上がある、その上には演台が設けられていた。

 そして、その演台に両手を突いて、一人の軍服を着た褐色の肌の軍人がマイクへと大声で怒鳴り込んでいる。

 外見からして日本人じゃないだろう。褐色の肌をしているというのに英語を使う事もない。悠長な日本語で一万人以上いる学生を圧倒しているのだ。

 

 ――――まあ今の現状を話す前にまず今朝方起きた奇々怪々な出来事を先に話すべきか。

 

 今朝……。

 案の定……。

 俺の部屋に奴らがやってきた。

 宿舎、俺の部屋、玄関から鳴り響く呼び鈴の音に起こされた。

 その前にも一度起きているか。親かの電話で一度起きている。だから今日も二度寝って事になるか。

 電話を出たとたんに質問攻めだ。聞きたいのは俺の方だっていうのに……。

 

 朝の早い時間に鳴り響く、呼び鈴の音はケタタマシく、俺の安眠を妨げる事になった。

 寝ぼけ眼で布団から起き上がると、二つ折りの携帯電話を勢い欲広げ今の時間を確認した。

 時計はすでに六時半を回っていた。

 そして携帯電話の画面上を見てある事に気がついた……。

 昨日までは全力で三本立っていたアンテナが今は一つも立っていたいのだ。

 

「圏外……」

 

 ベットの前で慌てふためいていると、呼び鈴のチャイムがもう一度鳴った。

 仕方なく圏外になった携帯を玄関の方へ放り投げると、俺は玄関の方へ呼び鈴を鳴らした主を確認するべく移動する事にした。

 玄関へ歩いていく。

 玄関の扉の向こうから聞こえて来る声に、耳を欹てながら。

 声の主は多分男だろう。二人くらいか、何を話してるんだろう。

 

「ここも駄目みたいですね」

「仕方ないな、扉をぶち破ぞ」

「あっ……」

「どうした?」

「あっやっべー、ハンマーさっきの部屋に置いてきちゃいましたよ」

「何やってるんだ、お前は……早く取ってこい!」

「了、了解しました」

「ハンマー? ブチ破る?」

 

 俺の部屋の前で一体何が起きてるんだ!

 不振な訪問者に慌てふためきながら、玄関の除き穴で外の様子を伺った。

 

「あっ! 軍隊?」

 

 部屋の外では、濁った緑色の帽子に迷彩服を着た人影が腕を組んで呆然と立ち尽くしている。

 その光景のせいで鮮明に昨日の記憶が蘇って来る。

 多分外の自衛軍は呼びかけに応じない為、不審に思い扉をブチ破るべく、仲間にハンマーなる代物を取りにいかせたのだろう。

 そんな事させてたまるか。

 結局弁償するのは俺なんだろ!

 俺は扉を勢い良く開けると、自衛軍の隊員は驚き、その拍子に俺と目が合った。

 その直後、目の前の自衛官の真横から声が聞こえてくる。

 先ほどの声、聞き覚えのある声だ。

 

「ハンマー持って来ましたよー、准尉ー」

 その声の主はフラフラと俺の目の前まで来ると、大きな溜息をついた。

 その溜息の理由が俺には痛いほどわかる……。

  そんな事を考えていると目の前で仁王立ちしながら腕を組む、上官らしき男が哀れそうな目付きで部下を見つめながら言った。

 

「ハンマー……必要ないみたいだ」

「ですよねー」

 

 少しの間を挟んで、目の前の光景に唖然とする俺へ自衛軍の挨拶が始まった。

 

「先程は失礼。本日入隊だと聞き迎えに来た次第だ」

「徴兵にきたんですよね」

 

 気が付けばその声に押されて少し頭を下げると、目の前の自衛官達へと質問を返していた。

 

「ええ、もちろんですとも」

「お前は黙ってろ!」

 

 鈍い音が鳴る……。

 部下が出しゃばった事が気に食わなかったのだろう、上官は部下目掛けて勢い良く強烈な肘打ちをお見舞いしたのだ。

 その衝撃と共に部下の口から濁った声が玄関へ響き渡った。

 

「度々の非礼を許してくれ。これから軍の重要施設へ案内する、詳しい話は然るべき時にするとしよう」

 

 上官は淡々と喋った。

 俺の目の前で今先ほど漫才じみた光景を演じていたというのに、上官の目はまるで笑っていない。

 そして、その上官の足元には悶絶する部下の姿がある。

 多分この部下の要領の悪さからしてみるに、入隊して間もないのだろう。

 

「もし、もしですけど……、従わなかった場合どうなるんですか?」

「あまり良い判断だとは思いませんな」

 

 凄く微妙な空気だった、なんと言うか冷たい感じだ。俺の後ろのフィギュア棚にあるロボット達でさえ凍て付きそうな嫌な空気だ。

 

「時に正道真一、隣の部屋がここから見えますが。どんな状況ですかな?」

「えっ? どんなって……」

 

 俺は、上官の一言に誘われて玄関にあるサンダルを履くと、少しだけ外の様子を伺った。

 丁度隣の部屋が見えるくらいまで身を乗り出して外の様子を伺ってみる。

 上官が言った通り、俺の視界に隣の部屋が姿を現した。そして言葉を失った。

 本来なら玄関に取り付けてある物が無いのだ。そう扉が無い!

 俺の驚く様を見て上官がまた声を掛ける。

 

「愚としか言いようがありませんな、あれ程警告をしたというのに。まあ逃がしはしませんよ、軍の情報網は脆弱な警察のソレとは比べ物にはなりませんから」

 

 そう言うと上官は得意げな高笑いを上げた。

 

「次期捕まるでしょう」

 

 初めから期待なんかしていなかった。志願兵でも良いものを一足飛びに徴兵令だなんて馬鹿げてるじゃないか。開始前から折れていた心からは反骨精神など生まれる訳もなく、気がつけば彼らの誘導に従っていた。

 

「いやー、君みたいな若者ばかりだと私共も助かりますよ」

「僕は完全に殴られ損ですけどね」

 

 先ほどまで地面で悶絶していた部下が不服そうに上官へと言葉を吐いた。

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