プロローグ1
俺は今戦場にいる。
俺の隣にいる傭兵仲間は誰とも、何処の国出身なのかも解らないような奴らで、まともな会話すら成り立たない。
大きな繁華街の中央道路、空爆でスクラップになったバスを盾代わりに前方でバリケードを張った敵の部隊と交戦中。
そして、一人、また一人と仲間が殺られて行く。
そんな中で怒声を張った掛声が俺の耳へと飛び込んできた。
「伏せろ!」
引き締まった隊長の掛声だ。
隊長の掛声で舞台が動く。そして一斉に隊員達はアリのように低い姿勢で構えた。
その直後、音速の銃弾は俺達の頭上の空気を切り裂き烈空の彼方へと姿を消していく。
だが、そんな隊長の掛け声を聞いても伏せない奴が居た。いつまでたっても自分の身を隠さないその傭兵は崩れかけたバスの小窓から敵への銃撃を止めず、仲間達の必死の静止も振り払い俄然の敵へと照準を合わせたままたちつくしていた。
まるで戦場の空気が読めて無い、自分の置かれている立場を把握していない。
そして案の定狙撃された。
味方のヘルメットは爆炎に巻き込まれたが如く空中を舞い、それだけで頭を打ち抜かれたという事を他の隊員達へ伝えていた。やがてヘルメットが完全に地面へと落ちきる刹那、乾き切った甲高い銃声が俺達の耳へと入って来た。
「バカが無駄死にしやがって」
思わず口にしてしまう一言。
「仕方ないさ、今は戦争中、目的の達成だけを考えろ」
「このままだと皆なさっきのスナイパーに狙撃されてしまいますね」
すでに何も言う事の出来なくなった仲間の亡骸を見て俺は隊長へ言った
「道の選択を間違ったか……」
少し間を起き隊長がまた喋り出した。
「そこの角を左に入ってビルの隙間に入る、みんな着いて来い!」
隊長の声を聞いて隊員達は一斉に歩道の左側を見た。
運良く瓦礫のバリケードは左側のビル同士の隙間まで延びており、屈んだ状態で進んで行けば、比較的安全な通路となっていた。
やがて隊長が先陣を切って動き出す。俺達も隊長の後を追う、敵になるべく気がつかれないようにできる限りゆっくりと、前へ、進んで行く。
今残っている隊員の数は隊長を入れて五人、上陸直後八人居た隊員達は激戦のさなか数を減らしていき、今の現状を表していた。
俺達の任務は敵の衛星施設を破壊する事。正面の道路を突っ切って進んで行けば一番早く目的の場所に到着できるのだが、中央突破は予想通り敵からの手痛い歓迎を受けることなった。
たぶん作戦を変更しても状況は変わらないだろう。
そんな事を考えていた矢先の事だ。敵兵の一人が俺達の隠密行動に気が付き他の仲間へと支持を出した。
そして、俺達同様にビルを一つ分超えた向かい側の道路へと移動を開始している。
敵がゾロゾロと行進する足音が聞こえた、三、四、五人。足音だけで人数を把握する。
足音を確認してから、暫くして。細い通路へと入ろうとした瞬間に細目で敵のバリケードがあった方向も確認する。瞬間的に視線を移し、今残っている敵の残存兵力を確認して頭の中で計算した。
バリケードの方向にも二人ほど待機していたのでこのフィールド内ではすでに五対七、更に何処かにスナイパーも隠れているのだろう。この状況やはり不利だ。
結局の処、戦争なんて数で勝敗がすでに決まっているのだから、不利だと思ったのなら逃だすのが一番利口なやり方なのに。
暫くビルの隙間、狭い路地を小走りで蟻の行進をしていた時。路地を半分程進んだ辺りで前方の隊長から指示が出た。
「よーし、止まれ!」
急に前進していた隊長が止まったために、俺は隊長に激突しそうになる。
「どうしたんですか? 急に」
「今から引き返し敵の裏を取りに行く、その方が確実だ」
俺は、その新しい作戦を聞いた瞬間、既に頭の中で賛成していた。このまま引き返せば五対二。
上手く立ち回りを組めばほぼ無傷で敵を倒せるはずだ。
他の隊員達もその作戦に賛成したらしい、戦闘は入れ替わり俺は後ろから二番目という位置で、前方の見方の背中を見ながらまた歩き始めた。
この狭い路地はプラスチックで作られたゴミ箱やら、ダンボールやらが乱雑に地面に転がっている、足場を確保するのも一苦労といった状況だ。
路地を小走りで走る途中、自分の服がビルのコンクリートに擦れてマッチをこすり付けた時の様な摩擦音を上げた。
暫くして、先ほどの中央道路を確認する事が出来た、更に瓦礫と化したバスも視界へと入って来る。
やがて、俺達は先ほどの激戦区、中央道路へと引き返して来た。瓦礫の隙間からなるべく気がつかれない様に顔を出し、周囲の様子を伺う。少しでも物音を立てて向い側のバリケードの様子を伺った
「あいつら呑気に煙草吸ってやがるな」
隊長は半ば呆れた口調で俺達へと言った
「残りの一人はナイフで遊んでますね」
戦場という緊張感をまるで把握していない、そんなあいつ等に制裁とばかり俺は銃器の照準を合わせた。
そして引き金を引こうとした瞬間だ、聞きなれない言葉を他の隊員達が一斉に発していた、否、意味は分かる「爆発するぞ!」という意味だ。
他の三人の隊員達も手榴弾を片手に敵のバリケード目掛け、一斉に放り投げていた。手榴弾は奇麗なアーチ状の方物線を描き、地面へと落下する。そして一秒とたたずに軽快な爆音を轟かせて向い側のバリケードの瓦礫を吹き飛ばした。
本来ならこれで敵さんがやられてくれれば儲け物なのだが、そんな好都合たぶん無いだろう。
それ所か今の爆発音を聞いて、向かい側へと移動していた敵の兵隊達が気付いて戻って来るに違いない。