第二話 その4
翌日――――といっても実際の時間では2~3時間だが
俺とミーシャ
そして偶然出会った少女――名前はユリというらしい――ユリを連れて歩く。
昨日洞窟の中で言われた
「私を…パパとママの所に連れていってください!」
この言葉を聞いて俺とミーシャは快諾することにした。
そもそもこの世界を冒険するのが目的だったのだ。
パパとママということは町があるはずだ。
ではその町までの冒険を楽しむのもアリだと思った。
そこにとりあえず向かってみよう。
一晩話して、一緒に寝て起きるとユリは初めて話した時と打って変わってなついてくれた。
スケルトンの俺にも普通に抱き着いてきて手も握ってくれた。
怖くないか?と聞いたら
「ううん!カッコいい!」
と言ってくれた。
初めてスケルトンでよかったかもしれない。
ちなみに打ち解けるついでに飲み物のんでびちゃびちゃする一発芸みせたらミーシャと一緒になって爆笑してた。
この芸意外と便利かもしれんが何時までも笑うミーシャがちょっとうざかった。
念のためにユリには昨日拾った布でフードをとケープを作って顔を隠してもらっている。
ついでにブーツを履かせて身長の底上げ。
これで背格好でばれる危険もない。
時折現れる敵は俺が相手をしてその間ミーシャがユリを守る。
で疲れたら交代してミーシャに任せる。
といっても前衛向きじゃないミーシャに任せるのは短い時間だが。
そんな事を繰り返して進むと気づけば風景も変わってきた。
荒野と草原のエリアから変わって森林、樹林取った感じだった。
巨大な木の根っこがうねって街道の上をまたいでいる。
天然の洞窟のようになってる場所もある。
起伏がやや激しい道だがユリは慣れた足取りで案内してくれる。
「それにしても凄い樹ね…てっぺんが見えないよ」
「ああ、この大木も授業とかで習う大木の比じゃないぞ」
「授業?あれ学生?」
「ん?おうそうだぞって…ネットでリアルの話は」
「ごめんごめん、タブーだったね」
気を取り直して進むと集落を見つける
巨大な崖には点々と穴が開いていて手前にある大木にも扉らしいものまでついてる。
「あそこだよ!」
嬉しそうに指をさすユリ。
ミーシャと手をつないで歩く姿は姉妹のようでもある
集落の入り口付近まで進む。
すると広場に出てきていた男女がこちらに気づいた。
「きゃあ!魔物よ!魔物が来たわ!」
「みんなさがれ!男たちは武器を持ってこい!」
と一気に乱戦ムード。
二人そろって苦笑いである。
まあ俺骨だがから感情とか出しにくいんだけど。
するとユリが手を振りながら声を張り上げる
「ぱぱー!ままー!この人達はあんぜんだよー!」
その言葉に戦闘で剣を構えていた男性が驚く。
「ユリ‼?なんでそんな魔物と!危ないからこっち来なさい!」
「危なくないもん!ミーシャはやさしいもん!カケルはかっこいいもん!」
昨日までの毅然とした態度はどこへやら。
年相応の口調になり俺たちも思わず笑う。
きっと彼女なりに気を張っていたのだろう。
とりあえず俺も剣をしまって両手を上げる。
降伏のつもりだ。
すると男たちは顔を見合わせて頷くと俺たちの前まで来た。
「ほら、行っておいで」
そういって背中を押すとユリは両親の胸の中に飛び込んだ。
それと同時に「喋った!?」という驚きの声が上がる。
するとユリの父とおもわれる男性が前に出る
「えと…その…」
「ああ、こんななりしてるから怖いと思うけど安心してほしい。俺たちは敵対心は全くない」
そういうとホッとして胸をなでおろす。
「そうか、すまない。なにぶん外壁のない集落だ。魔物に襲われるとかなり危険でね…私はこの町でまとめ役をしているがルドというこちらは妻のミシェルだ。
娘を送って頂いて感謝する」
そういって握手を求められる。
それを握手で答える。
当然骨の手にグローブしただけなのだが嫌な顔をしなかった。
「立ち話もなんだしわが家へ来てくれ。事情を聞きたい」
「いいの?こう言っちゃあれだけど俺魔物だよ?」
「ははは!君たちが普通の魔物と違うのは分かってるさ。これだけ理性的に会話してくれるんだ。むしろ話せるほうが驚きだよ」
そういってガルドは俺たちを家へ案内してくれる。
家に入ると何人かの男性とガルドとミシェル。ユリがいる。
椅子に案内され座るとすぐ様ガルドはテーブルに手をついて頭を下げた
「娘を連れ戻してくれて礼を言う!」
先ほどまでの豪胆な口調と打って変わって低姿勢になりこちらは驚いた。
なんでも聞いた話では数日前に些細な事で父娘で口論になり娘が家を飛び出したというのだ。
すぐ戻るかと思いきや一日たっても戻らず村の物が森のはずれで見かけたという。
絶望にくれながら何度も捜索隊を出して、今日も捜索に行こうとしていたところに俺たちが現れたとか。
ユリに話を聞くと些細な喧嘩で家を飛び出したがその後魔物に追いかけられ逃げていくうちに先ほどのリザードマンにに追いかけられ俺たちの前に出たらしい。
ほぼ三日飲まず食わずで逃げ続けたらしい。
なんという強運。
ユリも母のミシェルにさんざん怒られた後抱き締められ再開を喜んだ。
しかし俺としては別の驚きのせいでそれどころじゃなかった。
どうやらミーシャも同じようだ。
周りをきょろきょろしている。
ここにいる全員アイコンがない。
「…なあ、これって…もしかして…なぁ?」
「いやでもさすがに…ねぇ」
「どうかされました?カケル殿」
「あ、いえ、その…この町では拠点登録できるのかなぁって」
そういうと首を傾げられた。
「きょてんとうろく?はてそれは…」
今の発言で俺は嫌な予感がした。
するとミーシャが
「あ!このくらいの石でキラキラしてて!宿屋とかにあるかなって!」
ジェスチャーで説明すると
「おぉ!護り石のことですな!」
護り石?
と首を傾げて案内されるとそこにあったのは紛れもなく拠点登録などで使う霊石だった。
「これは…どうおもう?」
「どうって…ねぇ」
独自の文化。名称の違う霊石。アイコンのない人々。
現段階では予想の域を出ない。
それでも頭をよぎってしまう。
「いやいやいや…それにしたってファンタジー脳がすぎるって」
「で、でも…私にはそうとしか…」
そんなことを話していると俺の首に下げたままの《女神の加護》かちゃりと音を立てて光った。
それを目にした住人たちは顔いろを変えてその場に平伏を始めた。
皆「お殿様のおなーりー」みたいな感じだ。
店主も客も、その場を居合わせた親子もバタバタと頭を下げる
「えっ!?えっ!?」
あまりの事に俺とミーシャは慌てるしかない。
よく見るとガルドとミシェルまでも頭を下げている。
「ちょちょ…何してんのガルドさん!」
「もももも申し訳ございません!まさかそのような高貴な方とは知らず今までの無礼をお許しください!私の命はどのように扱っていただいて構いません!
どうか妻と娘、ひいては村の物には寛容な処置を!!」
ユリはぽかんとしている。
よく見ると辺りにいる子供たちは親に頭を押さえられ無理やり平伏してる感じだ。
「ごめんまじで何のことかわからないんだ!」
「カケルなんかこわいよ…」
さすがに村人全員に平伏される経験なんて初めてだ。
ミーシャも若干引いている。
俺が何度も頭を上げるように言うとやっと恐る恐る頭を上げてくれる。
「なんで急にそんな態度になったのか俺わからないんだけど…」
そういうとガルドがちらっと俺の胸にかかる《女神の加護》を見る
「これ?」
それをちょっと持ち上げて見せるとうなずいた。
「それは太古……いえ、この世界が生まれたときに作られたものといわれております。
この世界を生み出した女神「レイヤース」さまはその魂を使い大地に豊穣と空には安寧を与えてくださいました。
しかし大地の豊穣は魔力を現し魔力は魔物を生み出しました。
人と魔は争い、血は大地を汚し豊穣の土は穢れの土へと変わりました。
美しかったはずの世界が穢れ、無数の骸を嘆いたレイヤース様はその魂を砕き各地へ護り石として穢れから守ってくださいました。
そのレイヤース様の魂の結晶がその…」
「俺の《女神の加護》ってこと?」
「で、でもそんなこと言ったら私のだって…」
そういって雫の形をした《女神の加護》を取り出す。
しかしガルドは首を傾げる。
「はて、女神の加護は一つしかございません。おそらくそれは護り石のかけらかと。かなり純度は高いので
それだけでも良いものと思いますが…カケル様の持つものは間違いなく《女神の加護》でございます!」
俺とミーシャは顔を合わせる
テクスチャバグかと思いきやまさかの激レアだった。
そういえば俺がファエンダルの町に入った時もそんな感じのリアクションだった。
って…あれ?そういえばあの門番も頭にアイコンなかったような…。
「でもこれがすごいってのは分かったけどなんでそんなみんな頭を」
「言い伝えでは結晶を持つ者は世界を正すものと言われております。古い文献などは残っておらず。ただその結晶を持つものは大いなる力を持ち
世界に影響を与える聖なる存在と…。」
「聖なる存在……ぷぷ」
「うるさいって!…こほん、とりあえず俺からのお願いいいですか」
「は、はい!」
「できたら普通に話してください。これがどんなにすごくても俺は俺なんで。むしろ軽く今の状態の方が怖いっつーか」
チラッと見ると宿屋の外の人たちまでも広場で平伏している。
まるでこれじゃ神様だ。
なんとか話をまとめると彼らは何とかぎこちないながらも頭を上げて普通にしゃべってくれた。
それにしても中々に不思議な体験だった。
そんなことあるのだろうか。
俺は思わず頭を掻き毟りたくなるが頭部は髪も頭皮の無いので骨と骨がこすれてかちかちと音が鳴るばかりだった。
「とにかく拠点登録しよう」
「そうだね」
触れて登録してしまえば問題ない。
この霊石を通せば一度立ち寄った町にも転移できるのでやっておいて不便はない。
ミーシャが降れて、次に俺。
それにしても外壁のない町か…危ないな。
せめてそれくらい作ったほうがいいよな。
と、俺が触れた瞬間俺の《女神の加護》が輝いた。
次の瞬間大きな地鳴り。
皆急いで外へ出る。
そこで飛んでもない者を見た。
集落の外、崖を背に正面は広大な森が広がるのだが森と集落の境界線に突如岩と大木で出来た壁が隆起し始めたのだ。
それは時間にしてわずか五分
あっという間に集落を守るように半円形の外壁が出来上がったのだ。
外壁は集落の後ろ側にある崖までしっかり伸びていて隙間など無くなっていた。
しかもしっかり外へ出るときは鉄の門付きだった。
その姿はまさに霊石を触れる際に想像していた理想の姿と同じだった。
その後しばらくその光景を見ていた宿屋の店主が
「カケル様が!カケル様が一瞬にして外壁を作ってくださったーー!!」
と叫び再びこの町に「殿のおなーりー」が行われた。
とりあえず俺とミーシャは逃げる様に宿を取って部屋に入り込む。
「なんかすごいことになっちゃったね」
「ああ。びっくり」
「あれどうやったの?」
「いや別に…霊石触るときに「外壁あったらいいなー」って考えただけだよ。そしたら《女神の加護》が光ってさ」
「でも今までそんなことなかったよね」
なんて話していると小さなウィンドウが開きっぱなしなのに気付いた。
『ユニークスキル《建築》を獲得しました。』
「は?」
「え?」
俺の声に振り返るミーシャ。
俺の見てるウィンドウを横から覗き見る。
ちなみにPT組んでいると人のウィンドウは見えるのだ。
組んでいなければウィンドウを開いてることがわかっても内容までは見えない。
「なにこれ…《建築》?聞いたことないよ」
「俺も…いやでも料理があるくらいだし…ちょっと調べてみる」
「しらべるってどうやって?」
「え?俺のユニークスキルの《見極め》で」
そういうと目を見開いてミーシャがとびかかってきた
その反動で俺は吹っ飛んでそのままベッドの上に押し倒される。
「まって!今なんて言った!?《見極め》‼?なんでそんなの持ってるの‼?
それ普通に手に入るもんじゃないよ!?エクストラスキルだよ!エ・ク・ス・ト・ラ!」
そんな事よりかわいい女の子の顔が目の前にあって尚且つ俺の上に乗っかられる。
ううん、俺が骨でよかった。
出なければ色々と拙い事になってたかも。
「こほん…いつから目覚めたの?」
畳みかけるような彼女に唖然としていると今の態勢に気付いたのか顔を赤くしながら降りた。
「えと…いつだ?」
『今から約7時間23分前です』
「それ約って言わねぇだろ……えと、その時何してたっけ」
『龍種プレイヤーアストロスと決闘中でした』
「ああ!そうそう!アストロスと戦ってたわ!そん時獲得したって言われた。
そういうと胡散臭そうに俺を見るミーシャがいた。
「なんだよ」
「あのねぇ…戦闘中にスキル覚えるわけないでしょ?レベリング性のゲームなんだからレベルアップ時に必要なステータス持ってて尚且つ経験をしていて初めて得られるの!」
「そんなこと言っても本当に出たんだもん。なぁ?」
そういって《見極め》話を振る。
『ユニークスキル《見極め》は間違いなく戦闘中に獲得しました』
「ほら」
「ほらっていっても私には何も聞こえないけど?」
「うぬぬ…こういうとき俺の考えてることとかそういうの伝われば便利なのに…」
その時小さなウィンドウが開いた。
「ん?」
二人してそれを覗き込む。
『ユニークスキル《念話》《思念共有》を獲得しました』
「お、なんか覚えた」
「はああああああああああああああああああああ!?!?!??!?!?」
「うわ!うっさいな…なんだよ」
耳がキーンとする。
耳元で叫ばれたら鼓膜が割れるかと思った。
骨だからないけどさ。
「あんたねぇ!これ二つとも上位スキルよ!?それが何で!!」
『ユニークスキル《思念共有》を使いますか?』
これ使えば説明できるの?なら頼むわ
『ユニークスキル発動を確認しました。』
「え、ちょなに、急に頭の中に声が」
突然ことであわてるミーシャ。
なんか見てても面白い。
『ユニークスキル《思念共有》で現在二名に《見極め》の情報が共有されています』
「あ、これそういうこともできるんだ」
「わわ、なんか頭の中に声が…しかもカケルの声もダブって…お願い喋んないで。せめて脳内でやって」
ファルチキください
こいつ…直接脳内に!?
「ちゃんとのってんじゃねえよ」
「いやそれふられたらもうね」
『…互いの以心伝心を確認。今後より望まない限りは互いの思念を通すのは止めておきます』
「ああ、頼むわ。二重に声が聞こえたら混乱しちゃうし」
「うぅ…でもなれないなぁ…」
「ちなみにミーシャからお前に問いかけて情報をミーシャに渡すってことも可能なの?」
『可能です。ただしあくまでスキルの保持者は「カケル」となっていますので保持者に不利益と判断される情報は渡されません』
ということは仮とはいえミーシャもエクストラスキル《見極め》を使えるわけだ。
「よし、じゃあとりあえず《思念共有》をオフにしてくれ」
『ユニークスキル《思念共有》の停止を確認』
「なに?とまったの?」
「おう、とりあえず《思念共有》だけ切った。もう一個の《念話》はたぶん今の奴と似てるけど《見極め》の効果を得られないんだと思う」
「そっか、まあそれでもしばらくはいいかな。頭が疲れちゃった。…て思ったんだけど」
ふとミーシャが俺に振り返った。
「ン?」
「カケルって《見極め》もってるならその見極めの腕輪いらないんじゃない?」
「え?そうなのか?」
『見極めの腕輪と同じく他者のHPの表示はスキル《見極め》にも搭載されています。このままつけていても問題ありませんが相乗効果などはありません』
本当だ。
どうやらこのリングをつける意味は特にないらしい。
それでもなんとなく外す気にはならなかった
「ん~…まあいいや」
「え、なんで?
「なんとなく」
「だって効果ないんでしょう?」
「ん~~~~……」
何とも言いにくいなぁ。
そんな事を考えていると何かがonになった感じがした
『カケルが答えにくいらしいので代行して答えます。『数少ない友人から貰ったものだから効果が無くても外したくない』だそうです』
口が開くのが止まらなかった。
この野郎…勝手に《思念共有》つかってミーシャにチクリやがった!
ミーシャを見ると顔の前まで翼を持ってきてもじもじしている
「そ、そういうことなら?その、別につけててもぉ?いいんじゃないの?」
だめだ恥ずかしくて死にそうだ。
『動悸の上昇を確認。長時間プレイによる負荷と思われます。今日は宿でログオフし休息をとることをお勧めします。』
そういうことじゃねぇんだよ!
あまりにも気まずいので今日はここまでということにしてログアウトすることにした。
今回はギャグ多めの会話回でした。今後の『』吹き出しは基本《見極め》さんの言葉です。
そのうち名前つけよう。