第二話 その3
ここからちょっと展開が変わります。
森の中を駆ける銀色の髪
スカートを翻しながら走る姿には必死さがうかがえる。
「ハァッハァッハァッ…」
息を切らしながら走る。
後ろからは魔物が追いかけてくる。
確かに魔物はこの世界にはいるけど…。
なんでこんなに!?
背後から迫る三体の魔物。
私は必死に逃げることしかできない。
このままでは殺されてしまう。
必死に、逃げるしかなかった。
怖い怖い!
必死に逃げるうちに私は確認してなかったんです。
目の前が崖であるなんて…。
「それにしてもずいぶん強くなったねカケル」
「そうだな。アストロスからドローした分のお蔭もあるけどな」
「アイツ前々から嫌なやつだったのよ!運よく龍種になれたからって俺が最強だ!みたいな顔しちゃってさ!
アイツレベルは高いけどずっと町の周りで雑魚たおしてたんだから」
「はは、だろうね」
「しってたの?」
「いや戦い方がすごい直線的で多数対1なんてやったことないんじゃないかなってね。
多分複数いたら火炎で焼き払って残った一体とかと戦ってたんじゃない?」
「あ~それかも」
なんてことを言いながら道を歩く
崖沿いに馬車一台通れるかって程度の幅をふたりであるいていると頭上から音がした。
俺たちの上にはさらに小高い崖がありそこは草木や森がある。
丁度俺たちはその下にある段差になった道を歩いていたのだ。
ガサガサと草木を描き分ける音だった。
ふと視線を上に向けると
先ほどの崖からバサッと音を立てて一人の少女が飛び出してきた。
飛び出すということは当然彼女の体は崖から飛び出た形になり次第にその体は重力に従い下へ…。
「ミーシャ!」
「了解!」
咄嗟に叫ぶと彼女は《飛行》のスキルで少女に向かって飛びあがる
俺は何かないかと辺りに《見極め》を使う。
『前方に壊れた馬車があります。中にクッションになりえるものがあるかもしれません』
空を見るとかろうじて足でキャッチしたミーシャだがやはり二人分も抱えて飛ぶのは不可能そうだ。
自由落下に比べればましだがそれでも下手をしたら二人そろって怪我をする。
咄嗟に壊れた馬車に《ギド》を打ちこみ覆っていた部分を吹き飛ばす。
すると中には商品だったのだろう。大量の布が出てきた。
「ミーシャ!あそこに!」
俺の指さすものを確認するとそこに向かって滑空する。
半ば突っ込む形で落ちる
「あいたた…ありがとカケル。危なかったよ。この子捕まえた途端方向転換も高度維持の難易度が一気に跳ね上がってさ」
「よかった。その子は?」
気を失ってるようだが少女に大きなけがはなさそうだった。
『――――――警告。何者かが迫ってきます。』
咄嗟に布を少女にかぶせる
するとほぼ同時に少女が飛び出してきた草むらからリザードマン風の半魚人が数名顔を出していた。
「ちくしょう!みうしなった!…お?おいアンタら!ここで女の子を見なかったか!」
崖上から声をかけてくる彼らに向かって
「もしかして小さい子か!?」
「おお!そうだ!どこいった!?」
「なんか飛び出したと思ったらそのままがけ下だったよ!」
「くっそ!まじか!…ありがとうよ!」
そういって踵を返して離れていった。
「…どうしたの?」
「いや、なんとなく嘘ついちゃった」
「まあ、こんな小さい子を追い回すんだもんね。それがいいと思うよ」
再び顔だけ確認する。
幼い顔立ちで銀のさらさらした髪。
先ほど見た感じでは腰まで伸びてた。
手足を確認すると傷だらけで森の中を走って逃げていたことがうかがえる。
「治療もしたいけどここじゃアイツらがまた来るかもしれない。移動しよう」
「わかった。前この辺には来たことあるから…少し行った先に洞窟があるからそこにいこ」
マップを開いて道案内をする彼女の後を俺が少女を背負い進む。
ミーシャの腕ででは背負えない。
少女の上に先ほどの布をかぶせる様にして運ぶ。
念のため他の布もインベントリに入れておいた。
アイテムの持てる数は無制限だが代わりに総重量が持てる数を意味している。
POWERの最大値が高いほどたくさん持てる。
俺は現在61なので300という数値まで持てる。
POW×5が持ち運びの数値なのだ。
四捨五入なので61の1は切り捨て。
先ほど拾った布だがかなりまとまった数だがそれでも重量10なので結構いける。
装備してるものも荷物に含まれるのでのこり210といったところだ。
武器防具は案外重いのだ。
「ついたよ」
夕暮れになりかけている所で何とか到着。
「よし、さっきの布を重ねて引いてその上に寝かすぞ」
「まかせて」
準備を終えて寝かせている間にスープを作る。
ファエンダルの町を出る前に飼っておいたミニボアの肉と各香辛料。
ミーシャは次々と調理機材を出して準備をする。
どうやら料理スキルを上げたいらしくどんどん始める。
「っていうか任意で取れるスキルとかあるの?」
「うん、こういう生活スキルとかは繰り返してやるうちにどんどん熟練度上がっていいものができるんだよ。他にも裁縫とかで防具修理とかね。」
「おお、それはいいな」
彼女は攻撃魔法の《フォス》を使う。
それは火炎球を打ち出す魔法で俺の《ギド》と同じ初級魔法だった。
打ち出された火炎球はまとめておいた薪に燃え移りすぐさまキャンプファイヤーとなった。
便利な使い方だ。
俺の《ギド》は闇属性で火を起こしたりできない。
『闇属性の《ギド》は衝撃に似た属性なので岩石の破壊などには向いてます』
お?そうなのか。
じゃあ《メギド》は?
『上位となり若干の変化があります《メギド》は闇の火炎とも呼ばれ対象を燃やし尽くすか任意で消すまで残ります。
今回の場合は薪が一瞬で焼失するかと』
まじか…なら伝説の「闇の炎に抱かれて消えろ!」といえるわけか!胸が熱くなるな。
『提案―――《メギド》の名称を《闇の炎に抱かれて消えろ》に変更しますか?』
いやいやいいって!そこまでしなくて!カッコつけるだけだから!
毎回そんなこと言ってたら恥ずかしいから!
なんだか俺のユニークスキル《見極め》って結構話しかけてくるな。
それに結構多様性高いし、ありがたい限りだけど。
水で煮込んでいくと次第に良い香りがしてくる。
さすが鍛えてるだけあって旨そうだ。
「よいしょ…そうだ今のうちに彼女の傷治しておいて」
「おっとそうだった」
少女を観察する。
視線を向けると少女がいつの間にか起き上がっていた。
「あ、目が覚めた?」
「おはよー」
なんてのんきにいった瞬間
「き…」
「「き?」」
「きゃあああああああああああ!!!」
ものすごい声で悲鳴を上げられた。
洞窟の中だから反響してすごい。
「え!?え!?」
二人して混乱してると
「こないで!やめて!!」
と混乱した様子で暴れている。
俺が宥めようと近寄るが逆に抵抗が激しくなる
「まかせて!カケル自分がスケルトンなの忘れてるでしょ!」
「あそっか」
そりゃあ武装した骨に迫られたら誰だって怖い。
比較的見た目が人に近いミーシャが行くと少し落ち着いたみたいだった。
「驚かしてごめんね?別にあなたを怖がらせたかったわけじゃないの。まだ足も怪我してるし…お願い治療させて?」
ミーシャの真摯な態度に少女の警戒は薄れておとなしく座ってくれる
落ち着いたことで痛みがぶり返したのか少女の目には涙がたまっている。
「えと、俺が怖いかもしれないんだけどさ。足の傷治していい?」
そういうとコクリと一回頷いた
とりあえず傷の状態を確認っと
『傷の状態を確認…………解析しました。損傷は微々たるものです荷物の回復アイテムで治療可能ですが、現在貴方の保有するスキルで治せますが如何しますか?』
「ん?」
「どうしたの?」
「いや…いまちょっと確かめてみる」
ウィンドウを開いてスキル画面を見る
『 カケル Lv18
HP812 SP131
POW61 DEF51
SPE33 INT45
スキル
《見極め》《ショットガン》《ギド》《メギド》《クェナ》 』
見慣れない情報が書かれている。
「…これか?」
「どうしたのって」
「いやなんか、新しいスキル出てるっぽくてさ…クェナていうんだけど」
「お!ソレ回復魔法じゃん!らっきー!」
「あ、そうなの?えっと…消費SPは…4か、いいなこれ」
早速少女の体に手を向けて
「なんかパッと見事案っぽ―――あいたぁ!叩かなくたっていいじゃんさ!」
「うるさいですよ。ドドリルさん」
「私は冷凍一族の部下じゃないもん!」
そんな講義も無視して俺は続けて
「えと《クェナ》」
つぶやくと緑の光が放たれる。
それに触れた少女の体から細かな傷が消える。
「おお、成功した」
「ついでに私の頭のコブも直してくれるといいんだけど」
「なめときゃ直る」
「舐めれないよ!頭の上だよ!」
「舐めてやろうか」
「やめてー!!食べられるーー!」
何て事をしていると。
「あはは」
気付くと少女が自然と笑っていた。
「お!わらった!」
そういうと少女がハッとして顔を赤くする。
「笑ってる方がかわいいよね!カケル」
「そうだな。少なくとこコブをつけたミーシャよりは断然かわいい」
「もう!いいから直してよ!これ割と痛いんだから」
「はいはい」
なんてふざけながらミーシャの傷を治していると少女が口を開く
「二人はどうしてやさしいの?」
質問の意味が分からず二人で顔を見合わせた。
「ん…とそりゃあ人間が困ってたら…なぁ?」
「そうだよね。特に助けない理由ないよね」
そんな事を言っていると少女が膝を抱える様に縮こまる。
「ちょっと質問いい?」
俺が彼女に問うとうなずいてくれる。
「もしかしてリザードマンに追われてたことと関係ある?」
「ッ!!」
びくりと体を震わせ、しばらくした後頷いた。
そしてぽつぽつと語りだした。
「魔物はどこにでもいるからその危険は承知済みなんだけど…魔物には縄張りがあってそのエリアを出るとあきらめて出ていくの。
あの魔物は水辺が生息地なはずなのに森の仲間で追いかけてきて、しかもずっと私を追ってきたの。れあだ!っていって」
今にも泣きそうな彼女をミーシャが抱き留めて慰める。
れあ?…レア…希少?どういうことだ?
『おそらく彼女にはNPCとしてのアイコンがないことが原因かと』
ハッとして彼女の頭上を見る。
そこで気付いた。
彼女の頭にはアイコンが出ない。
というか先ほどから喋っていてテキストウィンドウが開かない。
NPCとの会話はかなりランダムで必要な情報を聞き逃すことのないようにテキストウィンドウが出てくるのだ。
声を聴きながらウィンドウを見て聞き落とし見落としのないようにするのだが
それがさっきからこの子にはおこらないのだ。
何かの種族が人間に擬態してる可能性は?
『可能性としては20%未満…追われたのならその時点で擬態を解いて説明する方が速い。また、プレイヤーの擬態としてもプレイヤーの頭上にはPTアイコンやソロアイコンが出るので
頭上に何も出ないことはあり得ない。表示バグなどを疑ったほうが建設的』
「…どう?」
「うん、この子の言ってることは本当っぽい。俺のスキルで確認したけど…この子はたぶん本当に独立したキャラだ」
「これ…なんかのイベントかな?」
「いやどうだろう。イベントキャラだったらこうやって話を始めた時点でクエストなりなんか起動するだろう。でもずっと何も起きないし。
さっきの怪我…NPC全てじゃないけどイベントキャラは不死属性が付くはずだ。でないと一番最初に見つけたやつが受注してキルしてクエスト報酬独り占めできちゃうしな」
「あの…」
俺たちが相談していると少女が不安げに話しかけてきた。
「ん?」
「なに?」
「私を…パパとママの所に連れていってください!」