第二話 その2
戦闘回です。その1に比べてなんと3倍。
バランスの悪さに定評のある私です。
『アストロスより決闘の申し込みされています。受けますか?』
【はい】/いいえ
はいを選択すると環境に変化があった。
足元や壁が一瞬発光したかと思うと空に大きな半透明なドームができる。
どうやら決闘による物破壊をしないようにフィールドか展開されたようだ。
町の中で攻撃をされるとダメージは通らないが荷物や人物に衝撃が入る。
その結果店先のアイテムが壊れしばらく品質が悪い品物しか売られなくなったり、プレイヤーにあたるといざこざの原因にもなる。
それらを防ぐものらしい……ミーシャに聞いた範囲だが。
アストロスの背中に乗っていたボブは降りて離れたところで声援と罵声を飛ばしてくる
「兄貴ーやっちまえぇ!くそ骨野郎なんか粉末にしちまえ!!」
「おう!まかせとけ!」
気付くと周りの観客らは勝手に賭けを始める始末。
「ふっふっふ…いくぞ!」
突撃するように攻めてくる。
二足歩行できる種族らしいが武器などを使うタイプではないらしく噛みつき攻撃をしてくる。
長い首が一気に間合いを詰めてくる。
「ったく!」
急いでさがる。
目の前でがちんと鋭い牙が閉じる。
そこにブロードソードを振り下ろす。
しかし顔を覆う鱗に弾かれ傷付けることはできなかった。
「無駄だ!ドラゴンの皮膚にダメージは通らん!」
体をぐるりと回転させて太い尻尾を振り回してくる
それを腕のバックラーで防ぐ。
激しい衝撃で視界が大きく揺れる
「おぉ!?」
HPバーが削れる。
まだ黄色にはいかないが今の一撃で全体の一割を持ってかれた。
さらにアストロスは息を大きく吸い込むモーションを始める。
口の隙間から赤々とした炎が漏れている。
咄嗟に右手を突き出す。
「カァァッ!≪ドラゴンブレス≫!!!」
「くっそ!《ギド!》連射ぁ!」
目の前を覆うほどの爆炎に対して《ギド》2発を打ち込むと全てでないにしろ火を打ち消す。
その隙間から火炎を避ける。
それでもいくらか火炎を浴びてしまい再びダメージを受ける。
アストロスは満足そうに高笑いをする
「わっははは!!その程度の実力でアイツのPTが務まるのか!?」
「ったく…だから初心者だって言ってるだろ!」
しかしあの範囲攻撃は厄介だ。
アレをまともに食らったらおそらく残りのHPでは助からない可能性がある。
気分良さそうに高笑いするそいつを見た観客がぼそぼそと声を漏らす。
「さすがにひでぇよな…初心者だって?」
「ああ知ってるぜ。アイツ数日前にログインしたばっかだって言ってた」
「そいつ相手にアストロスが?なんでよ」
「しらねぇよ。来た時には始まってたんだから」
そんな会話が聞こえる。
やっぱりこいつはそれなりに熟練者に入るみたいだ。
下手するとLv20超えてるんじゃないか?
何処かに弱点がないか、奴の全体を凝視する。
その時小さなウィンドウが開いた。
『ユニークスキル《見極め》を得ました。使用しますか?』
yes noのアイコンがない。
これは頭の中で指示すればいいのか?
とりあえず頼む!なんでもいいから情報をくれ!
俺の問いかけに対してやけに流暢な音声が流れる
『アストロス Lv22 龍種 属性火 機動力が低く火力に長けた種族。先ほどの火炎攻撃から通常スキル《ドラゴンブレス》に目覚めていることがわかります。
現在貴方の持つ戦闘方法で最も有効な手段は《ギド》の上位スキル《メギド》による一撃が最善。しかしチャージに時間がかかる為その方法を模索する必要があります』
お、おう…やけに具体的な指示をくれるな。
『ユニークスキル《見極め》にはユーザーサポートとして思考補助機能があります。ただしその間敵が攻撃を待つわけでは』
「何と突っ立っておる!くらえぃ!」
突進を仕掛けてくるアストロス。
「おぉわわわ!!」
転がる様に避ける
『……ないのでご注意を』
おせぇよ!!
しかしそれでも助かった。
奴への攻撃手段があるだけ良いだろう。
「ふっふっふ…どうだ恐れ入っただろう。お前が俺の舎弟になりミ、ミーシャとの間を取り持つと、約束するのなら」
突然口ごもりながらモジモジする。
なんだコイツ気持ちわりぃ。
見た目がごついドラゴンなだけに動きがキモイ。
「舎弟にはならないしミーシャの事は本人に言えって」
そういうと周りから笑いが起こる。
「この!」
元々赤い顔をさらに赤くさせてアストロスが拳で殴ってくる。
『しゃがんでください』
「うぉ!?」
突然の声に驚いてしゃがむと俺の頭の上を拳が空を切る。
『胴体が開いていますの《ギド》を放ってください。可能ならば連射を』
確かに目の前にがら空きのボディがある。
ならば腹めがけて右手を添える。
「おぉっし!ショットガンてやつだ!!」
その瞬間視界の端で小さなウィンドウが開いたが無視して2発打ち込む。
今までの発射音とは異なる破裂するような激しい音が響き渡る。
するとアストロスのからだが浮かんで10m近く吹き飛んだ。
今までの《ギド》だとせいぜい2~3mがいい所だったのにも関わらず今回のは威力がやけに高い。
不思議に思っていると先ほど表示されたウィンドウを思い出した。
『ユニークスキル《分散》を獲得しました』
なんだこれ
『ユニークスキル《分散》は一つの放出系スキルを散弾の様に範囲攻撃に代えヒット確立を上げるものです。
ただし《分散》によって範囲攻撃にされた攻撃は一つ一つの威力が元の十分の1.5ほどになり全てを当てないとダメージそのものが低下します。
また分散数は10となりますので全てを一体にヒットさせた場合元の攻撃の1.5倍となります』
なるほどそれこそショットガンだ。
便利なスキルを得たもんだ。
使用条件は?
『先ほどと同じように掛け声でも結構です。』
なるほど任意で発動できるのね。
納得しているとアストロスがゆっくり立ち上がる。
「ぐぐ…下手に出ていればつけあがりやがって…」
「下手の意味わかってる?どう見ても上から目線だったじゃんか」
「うるさい!お前なんか消えてしまえ!!《ドラゴンブレス》!!」
頭に血が上ったアストロスが火炎放射の様に火を噴いた。
俺の中で何かがひらめいた。
右手を突き出して構える。
「よし…!《ギド》を《ショットガン》で二連射だオラァ!」
先ほどと同じように火炎に向かって打ち込む。
「無駄だ!防ぎきれなかったのを忘れッ――――‼?」
次の瞬間アストロスの顔は驚愕に染まった。
先ほどでは火炎の一部を打ち消すに過ぎなかったカケルの《ギド》が今回は全ての火炎を打ち消したのだ。
正しくはカケルにあたるだろう正面の火炎が一気に霧散したのだ。
点で与える《ギド》に対して面で当てる《ショットガン》は相性が良かった。
元々ドラゴンブレスは強力だが強風などである程度防げる。
《ギド+ショットガン》は瞬間的な暴風に近い衝撃を生み出す。
結果火炎はかき消された。
当然こちらの攻撃も消えてしまうがそれでも十分便利だ。
「な、なにをした!」
慌てふためくアストロスを無視して一気に間合いを詰める。
「ま、まて!」
「待つかよ!《ギド》《ショットガン》!!」
再びアストロスの体が宙を舞う。
今回は一発だけだがそれだけでも十分な威力だ。
元々レベル差がさほど大きく出ていない相手だから初級魔法でも《ショットガン》のスキルで強化されてるから十分火力が足りるようだ。
なによりステータスを確認するとSP消費は変わらないようだ。
これならば多用しやすそうだ。
転げまわるアストロスを手の平で追い続ける。
距離が出来たら通常通り《ギド》で狙撃し接近戦は《ギド》+《ショットガン》で間に合う。
「まま、まってくれ!」
「降参する?」
「うぅ…」
両手をついて項垂れる。
戦意喪失。
そう理解した俺は剣を収めてその場から立ち去ろうとする。
次の瞬間自分の頭上に影が落とされた。
「あぶない!」
観客の誰かが叫ぶ。
それに反応して咄嗟に飛び退くと先ほどまでいた場所に火炎放射と共に巨体が落ちてきた。
どうやらアストロスが飛びかかりながら火を噴いたらしい。
俺を睨むその眼は怒りで血走ってる。
「くそがぁ…!もうすこしで…!」
「卑怯だぞ!」
「不意打ちなんてずるい!」
観客も彼の行動に不満の声を上げる。
「うぅぅぅうるさぁぁい!!!外野は黙ってろ!!」
怒りのあまり喚き散らす。
その行動はどう見ても周りから反感を買うばかりだ。
「…じゃあ続行でいいんだね?」
「殺してやる…!何度も殺してデスペナルティ与え続けてプレイする気をなくすまで殺してやる!」
「はぁ…あのさ、もう少し楽しもうって思わない?」
「だまぁれええええ!!!」
突進してくるアストロスは正直な話カケルにとってはミニボアを相手するより楽だった。
なんせ顔めがけて《ギド》《ショットガン》を打ち込むだけでいいのだから。
顔面に打ち込まれたアストロスは再び吹っ飛ぶと頭をふらふらさせている。
このゲームではダメージそのものはないが衝撃による疑似的な脳震盪などはあるのだ。
きっと彼の視界はボケるわ揺れて平衡感覚狂うわで大変だろう。
証拠にアストロスはまっすぐ立つことすら難しそうだ。
観客達も口笛を鳴らせながら声援を送ってくる。
「やっちまえー!」
「卑怯者にはお仕置きだー!」
などと完全にアイツのアウェイだ。
唯一の子分であろうボブもその勢いに飲まれて黙り込んでいる。
ならここは一発盛大なやつをお見舞いしよう。
腰を深く落として両手を前に突き出す。
残りSPは幾つだ?
『これまでに《ギド》を8発。一回に5P使っていますので40消費です。貴方の残りSPは73です』
結構残ってるな。
メギドにはどれだけ使う?
『一発に着き20Pです。チャージを行うのならば更に20P消費です』
ならチャージ無しだ。もう弱ってるしこれで足りるだろう。
両手を未だふらつくアストロスに合わせる。
両手の前に黒い暗黒球が現れる
そのサイズは次第に大きくなりキャラクター一体分にまで膨れる。
《ギド》とは異なり発動までに時間がかかる。完全に準備ができたときに呪文を叫ぶことで発動する。
『――完了』
「おぉっし!これ食らっておとなしくデスペナくらっとけぇ!!『メギド』ぉぉ!!」
放たれた暗黒球は次第に大きくなりアストロスに触れる直前で轟と重低音を響かせ3mほどの黒いドームになりアストロスを飲み込む。
何も残すことなくアストロスは消えた。
アストロスが立っていただろう場所には半透明の火の玉のようなものが表示される。
それはこのゲームで言う死んだプレイヤーだ。
決闘やフィールドで死んだプレイヤーは一度霊体になり浮遊する。
仲間がいれば蘇生魔法で回復してもらえるが不可能ならリスポーンだ。
そのままデスペナルティを受けることになる。
しかし一つだけ大きな違いがある。
『決闘』というシステムは基本的には『勝敗を決めるだけ』のシステムと『ステータスドロー』のタイプがある。
前者はその名の通り何かもめ事が起きたときにはっきり決めるための物だ。
しかし後者は『決闘』に負けた場合、敗者が失うはずだったデスペナルティぶんのステータスを奪うことができるのだ。
本来弱者が強者に対して仕掛けて、戦略で奪い取るというものが使用例だ(その代わり相手に不利な決闘を申し込むので個人間で交渉は必須)
アストロスは怒りでカケルを叩きのめすのと同時に弱体化を狙っていたようだった。
しかし逆に負けてしまった彼のステータスが減り、その分カケルのステータス上乗せとなったのだ。
流れ込むステータス。
カケル Lv18
HP685→812 SP113→131
POW48→61 DEF31→51
SPE28→33 IN39→45
さすが攻撃力と防御を併せ持つドラゴンと言うだけありPOWERとDEFENSEが共に上がった。
速度が芳しくないおかげかSPEEDの上昇は少なかったがそれでもラッキーだった。
一人ホクホク喜んでいると周りの様子がおかしい。
どうやら観客らがアストロスに対して強い怒りを覚えているようだった。
「まじかよ…初心者相手にドローで決闘申し込むとか…」
「ありえねー」
「これ『弱者狩り』だよな。運営に言う?」
「ありじゃね?」
などと皆不満を彼に向けている。
それはそうだろう。
強者と弱者が戦えば高確率で強者が勝つ。
戦況にもよるがそれは覆らない。
つまり強者がドローシステムで『決闘』を申し込むというのはプレイヤー全体から嫌われている「弱者狩り」なのだ。
しかも彼は先ほど試合中に個人的な、それも利己的な恨みでの決闘であることを叫んでいる。
その上「弱者狩り」となれば…。
「まじ幻滅だわ。アストロスお前とのフレンド切っとくわ」
「お前とはもうPT組まねぇから」
「最悪…それにしてもアイツすげぇな。その状況で勝ったんだから」
「まじそれな。カケルだっけ?フレンド申し込んどこうかな」
「あ、ずるいぞ俺も」
といった具合で完全に彼は孤立してしまった。
逆に俺には大量のフレンド登録がきた。
一人ひとり返事するのが面倒だったのでとりあえずほとんどの人にokを返しておいた。
その上で
「あー!俺にフレンド送ってくれた人ありがと!でもしばらく仲のいい友人と遊ぶからPT組むのはしばらく無理かもだけどなんかあったら連絡してな!」
と声を張るとちらほら「おー!そん時は頼むわー」などと気のいい返事が返ってきた。
ちなみにアストロスは宿屋からリスポンしたのかスゴスゴとどこかへ隠れる様に逃げていった。
やっと落ち着いたころには町の中も落ち着いた。
時折遅れてログインして噂を聞いた人が稀に「フレいいですか?」なんて申し込んできたがそれもokしておいた。
そんな作業をしてると
「お疲れ」
冷たい飲み物を盛ってきたミーシャがいた。
「お?これ何?」
「ユズリハのカクテル。これでSP回復するし意外とおいしいんだよ」
「VRで飲食するの初めてかも」
「へぇ。今までやったことないの?」
「最近買ったんだよヴァールメット。このゲームが初めて」
「でもずっとinしてたのに何も食べなかったんだ」
「興味があったんだけどバトルの方が楽しくてつい。それに昇格試験とか」
「あ~…そういえばずっと昇格試験やってたね。結局幾つになったの?」
「C+…どうしてもBの壁が分厚い」
「あはは。じゃあしばらくレベル上げとかだね」
「だな」
ユズリハのカクテルを飲もうと…。
って考えてみれば骨なのにどうやって飲んでるんだ?
その事をミーシャに言って確認してもらったら腹抱えて笑ってた。
なんでも普通にびちゃびちゃ突き抜けてるらしい。
一応SP回復してるし味も満足感も得るんだが…なんかこう…やだな。
気になったんで固形物を一口食べてみた。
すると固形物に関しては口にいれて飲み込むとその時点でロストするらしい。
食べた使いになり食べ物の効果と満腹感だけ残して消えるというのはありがたい。
しかしなんで液体で突き抜けるのか。
明らかに製作がわのミスだろ。
「ひぃ…ひぃ…おなかいたい…たぶん水をこぼすとかあるからその演算で起きたバグじゃない?」
「ちくしょう…なんか毎回漏らしたみたいじゃねぇか…」
一応水たまりができて5秒くらいですぐ消えるのだが…なんとも嫌だ。
「まぁまぁ私なんか鳥属性だから焼き鳥食べるとデバフかかるんだよ?SPダウンの」
「げ、まじかよ」
「そうそう、しらないで食べたら『マイナス効果《共食い》が発生しました』とか言われてこっちははぁ!?ってなったよ!まぁ最大値が下がるわけじゃないからまあいいけどさ」
まじか…つまり牛系とか豚系の人はそれらの肉が食えないのか…。
まあ食べるだけなら問題ないのだから食って宿屋行けば全開だしな。
うっかり外で食わないようにだけ気をつけよう。
まあ俺骨だから人系を食わなきゃ良い訳だし、
元々食う気ないし俺。
一気にユズリハのカクテルを飲み干す
うん爽やかなソーダの様に微炭酸がいいね!
おまけにわずかなオレンジのような爽やかさが心地いい。
隣で噴き出すミーシャは無視して出発しよう!
荷物を持ってファエンダルの町を出る。
「何時まで笑ってんだよ!」
「ご、ごめんごめん!…ぷくく…」
「ギド打ち込むぞ?」
「あわわ!ごめんってば!」
今日も天気良好!
冒険日和。