第一話 その2
彼女の後をついていくとなにやら人(魔物)が多く集まる建物をみつける。
まるでウェスタンの酒屋みたいなそんなデザイン。
じゃっかんファンタジー世界観でやや目立つそれに入ると中には外以上にプレイヤーがごった返していた。
先ほど戦ったコボルト種《亜人種》のような人、体が岩石で出来た《ゴーレム種》の人。
体がメラメラと燃え続ける炎のような霊体種の人それ以外にも俺が見ただけでは何の種族なのかわからない魔物もいる。
しかし中には人型もいる。
「あれ?このゲーム人間にもなれるの?」
「ああ、アレ《擬態》よ。ああやって人型になって元々の種族を隠して過ごせるの。
魔物姿だと本来の力を出せる代わりに人間から交渉時にマイナス補正かかっちゃうの。それを防ぐための物ね。
まあ中には自分の種族があまり好きじゃくてその恰好になる人もいるけどね
それに町によっては魔物の姿じゃ入れない場所もあるからそういうときには便利ね」
言われて納得した
そもそも町中に魔物がうろついてる方が変だ。
さらに言えばもし俺がムカデとか蜘蛛とかの魔物だったら心が折れる。
虫が苦手な俺としてはスケルトンでほんとよかった。
診断である程度苦手種族にならないようにはなるらしいがそれでも稀になってしまうらしい。
そういった人は大半がキャラメイクしなおすのだがこのゲームはキャラメイクはソフト一本につき一回。
つまりもう一回やりたきゃもう一本買えという話なのだ。
その結果泣く泣くそのままプレイして人型アイテムを手に入れて人間の姿でプレイするらしい。
人間の姿となると全ステータスが15%ダウンというデバフ付き。
また縛りプレイとしてあえてやるプレイヤーもいるとかいないとか。
「お?ミーシャじゃねぇか!」
「やほー」
彼女を見つけると皆一様に声をかけてくる。
中にはPTにはいってくれと誘うやつもいる。
「ミーシャ結構人気なんだな」
「えへへー」
などと会話していると先ほど見かけたコボルト風のプレイヤーが俺に気付いた
「ん?新人か?…ってお前PTアイコン…もしかして」
「あども、今日始めたばかりの初心者っす。ちょっとミーシャに助けてもらってここまで連れてきてもらったんだ」
そういうと辺りは騒然とした
「なにぃ!!アイツ俺たちを差し置いてミーシャとPT組んだってのか!」
「まじかよ!」
「どんな交渉したってんだよ!」
「俺なんか2週間前から誘ってるのに断れてるのに!」
と皆嫉妬の炎でこちらを睨む
「ほらほら、説明しちゃうからこっち来て」
「あ、うん」
ミーシャに手を引かれカウンターに連れていかれる。
ちなみにミーシャの手は翼なので羽に挟まれる感じになる。
モフモフですごい気持ちいい。
カウンターの前には椅子が二つ。
市役所の受付を思い出す。
意外と業務的なんだな。
「彼の登録をお願い」
テーブルの向こうに座る女性に声をかける。
黒髪のショートカットで知的な印象を受ける彼女の頭から二本の角が生えている。
どうやら何かの種族みたいだ。
しかし角の生えた美人か…ありだな。
「かしこまりました。ではこちらに記入を」
言われるがままに俺は名前や種族を埋めていく。
全てを記入を終えると受付嬢さんは席を立ちあがり部屋の奥へ案内してくれた。
「こちらへ」
「どこいくの?」
「これからカケルの戦闘力チェックするの。冒険者として登録するんだから実力を示さないとね」
「なるほど」
案内された先は空が見える広い訓練場のような場所だった。
そこには俺と受付嬢さんだけ。
ミーシャはいつの間にか観客席みたいな場所でこちらを見ている。
「では簡単な説明をさせていただきます。
ここでは各ランクごとの魔物と戦っていただきます。
その先頭結果次第であなたの冒険者ランクが決まります。
冒険者ランクは段階に分けでF E D C B A S SSとなっています。
またランクには+・-が存在したとえて言えばB+といった表記となります。
この場合Bランクの上位とみられます。またB-の場合はBランクの下位となりこの場合C+とほぼ同等となります。
B+とA-の違いは実力自体は差がない、しかし技術面でAに至っていないという見立てとなります。」
なんとも細かい判定になってるらしい。
「技術面はどうやって判別するのさ」
「はい、それに関しては被ダメージ、立ち回り、戦闘時間などが基本となります」
「なるほど」
「ではどのランクを受けますか?ちなみに受けて合格し実力が認められる場合はこちらから次のランク連続試験の質問をします。
ですので低ランクからの試験をお勧めします」
「そうだな…じゃあやっぱろFからで」
「了解しました。ではFランク試験エネミーコボルト3体となります」
「がんばれー!」
観客席から応援の声が聞こえる。
目の前に三体のコボルトが出現する
「ではこれよりFランク試験を開始します。制限時間は無制限。目標の殲滅が合格条件となります。開始」
合図とともにコボルトが一斉に襲い掛かってくる
とりあえずバックステップを繰り返し間合いを保つ
俺を追うように走ってくるコボルト。
最初は三体横に並んでいたが俺を目指し走るうちに肩がぶつかる様な距離にまで集まって並走を始める。
次に再度ステップで右に回り込むすると俺から見ると敵が縦一列に並んでいるように見える。
「ここだ!」
一気に間合いを詰めてブロンズソードを頭部めがけて突き出す。
すると一番前と二番目のコボルトの頭部を貫通する。
残念ながら三体目までは届かなかった。
頭部に突き刺すと赤い文字でCRITICALと出る。
するとそのままライフゲージは0まで一気に減り二体はそのまま消滅する。
しかし残った一体が棍棒を薙ぎ払うように襲ってくる
左手に持った盾を構える
激しい衝撃と同時に左手が痺れる。
《見極めの腕輪》の効果で左上に表示されたライフバーが僅かに揺れて微妙に減る
「よし、余裕だ」
続けて棍棒で殴りかかってくるコボルト
それを掻い潜り懐でシールドバッシュを見舞う。
技やスキルでシールドバッシュなんてものはないがどうやら効果はあるようだ。
二度、三度と繰り返す
するとスタンしたのかコボルトの動きが止まる。
そのまま体を回転する動きと合わせ一閃
コボルトの胴体を横薙ぎに切り捨てる。
そのままコボルトのライフは0になる
「おめでとうございます。この時点を持ってカケルさんはFランク冒険者として登録されました。
続けてDランクへと受けることが可能ですがどうなさいますか?」
どうやら俺の実力はDランクを受けるに値するらしい。
そうなればぜひ受けたいところだ。
「じゃあ頼みます」
「では続けてDランク試験 エネミー フロストスパイダー1体となります。目標の討伐もしくは無力化が目的となります。それでは開始」
目の前に現れたのは巨大な蜘蛛の魔物。
巨大なそれは二人乗りの小さな車ほどのサイズがある。
その瞬間俺の全身に鳥肌が立った。
スケルトンだから肌ないんだけど、とにかく悪寒が走った。
「うえぇぇ…」
二本の前足を大きく振り上げ襲い掛かってくる。
それを転がる様にして避ける。
正直近くに行くのすら嫌だ。
だが俺の種族はどう考えても近接特化。
どうにかできないだろうか。
などと考えていると奴は口から緑色の液体を飛ばしてきた。
咄嗟の事で盾を使いガードをする。
すると盾はシュウシュウと音を立てて融解を始めた。
急いで盾を外して投げ捨てると地面でグズグズに溶けてみるも無残な姿となった。
「溶解液ってやつか…やっかいだな」
敵を見据える。
続けて糸を吐き出す。
それを剣で切り払う。
「よし、糸は何とかなりそうだな。」
しかしブロンズソードに蜘蛛の糸がまとわりついてるのに気づく。
何度も糸を切ってたらそのうち切れ味が悪くなって綿あめみたいになりそうだ。
「なんかいい手は…」
「カケルおちついて!スケルトンのステータスをよく思い出して!!」
観客席にいるミーシャの声にハッとする。
HP323 SP35
POW22 DEF15
SPE15 IN20
そう、元々スケルトンは攻撃力が高いおかげで物理で何とかなっている。
しかしよく考えてみればそれ以外にも特質な部分があった。
それは魔力だ。
INTは知性などを意味している。
普通に考えればRPGで知性は魔法攻撃の威力を指すことが多い。
もしやと思いフロストスパイダーから大きく間合いを開いてウィンドウを呼び出す。
そしてスキルページをひらく
目を通すとすぐに今までなかった項目を見つける。
《ギド》と書かれている。
説明欄をみると『攻撃魔法 闇 SP5消費 暗黒球を打ち出し対象へダメージを与える』と書かれている。
「よし!これはいい!」
急いでウィンドウを閉じる
フロストスパイダーは今まさに溶解液を吐き出そうとしている
俺は盾を捨てたことでフリーになった左手をフロストスパイダーに向ける。
「くらえ!この虫野郎!《ギド》!!」
手の平から拳大の暗黒球が放たれる
それはフロストスパイダーの吐き出した溶解液すら弾いて本体へぶつかる。
飛び散る溶解液が地面を焼く音が聞こえるがそれと同時にドスンと重々しい衝撃音を響かせ
フロストスパイダーを吹き飛ばす。
が、2~3m程吹き飛ばされると再び立ち上がる
「聞いてるけど…まだ火力が足りないってか」
剣を再び構える。
あまりこればかりを連発してもよくない。
確実に当てていかなければ。
すると視界の端で小さなウィンドウがポップアップする。
『情報 《ギド》はSPを過剰放出をすることによってダメージを上昇させることが可能です。
チャージに時間がかかりますが追加でSP5を追加する事にダメージは倍に、さらに1.5倍のダメージボーナスを得ます。』
何ともありがたい情報だった。
「とりあえずは相手の動きを低下させないとな…チャージするためにはアイツには待っててもらわないとな」
さてどうするか。
人型だったら膝片方だけでもダメージ与えればそれだけで速度低下するが…。
チラッと相手を見る。
ぎちぎちと動く無数の足。
どうやらスパイダーとはいうが実際の蜘蛛より足が多く思える。
あれだけある足を一本傷つけただけでは効果があるとは思えない。
なにか良い手は…
そう考えているとき俺は一つの方法をひらめいた。
「…よし!」
意を決すると俺はフロストスパイダーの前に立ちはだかる様に足を止める
「ばか!何止まってるのよ!溶解液が来ちゃうわよ!」
ミーシャの声が聞こえる
それでいいんだよ。
俺の予想通り俺が動きを止めると奴は溶解液を吐き出した。
3回も連射される。
それにめがけて左手を突き出して再び《ギド》を連射する。
全てを打ち落とす。
ギドとぶつかるごとに溶解液はびちゃりと飛び散る。
全てが終わるころには辺りは溶解液で溶ける嫌なにおいがする。
溶解液を打ち落とすために放った一発がスパイダーに当たったのか再びよろめく。
しかしそれでも止めにはなりえない
審判として見ていた受付嬢さんは距離を取ってみているが俺に質問してくる
「いかがしますか?難しそうであれば中断も…」
「いやこのままで!」
俺の声に彼女は黙ってみる。
しかし奴の動きが鈍い。
想定道理だ。
フロストスパイダーは俺に向かって放った溶解液が目の前ではじける結果になっている。
辺りを見ればわかるがギドとの衝突はかなり激しいらしく飛び散り方も中々だ。
それを目の前で三発も起きているのだ。
体の大きなフロストスパイダーには溶解液が大量にかかっている。
いくらその体が溶解液に対する抗体を持っているとはいえあれだけの量を食らえばダメージは免れない。
さらにギドを2発食らっていてダメージも入っている。
のそりと立ち上がろうとするが手間取っている
大きく飛び退いて剣を収める
「な、なにやってんの!今がチャンスでしょうが!」
「あれだけの溶解液を吐き出すモンスターだぞ。下手に剣で切りかかったら腹ん中にある溶解液袋切り裂いて俺もダメージ食らっちまう」
「だったらさっきの魔法でも!」
「だから…みてろって!」
両手を前に突き出す
『攻撃魔法のチャージショットをしますか?』
あたりまえ!
すると体の中に残っていたSPがすべて消費されるのを感じる
35ポイントあったうちの20ポイントは先ほどまでの戦いで使っていた。
残すところは15ポイント。
こうなったら下手に出し惜しみは良くない。
盛大に行こうじゃないの。
『魔力過剰放出により攻撃魔法のスキルが強化されました。広範囲破壊呪文を習得しました
現在の魔法を《メギド》に自動的に変換します。』
なにやら知らんうちに魔法が強化されたようだ。
「なんだっていい!食らえや!精神的害虫!《メギド》ぉ!!」
強大な暗黒球
そのサイズは既に俺の身長を超えるまでになりつつあった。
轟音を轟かせながら暗黒球は地面を抉りながらフロストスパイダーに迫る。
未だ動けない奴は暗黒球に取り込まれると無抵抗のまま消滅をした。
そして球体はその場で3mほどの半球体のドームとなる。
それらが収まるとドームの内側は地面を大き陥没し何一つ残っていなかった。
『WIN LEVELUP カケル Lv10
HP405 SP53
POW28 DEF19
SPE18 IN27』
一気に8から10に上がった。
LEVELUPしても消費したSPは回復しないらしいが。
「フロストスパイダーの消失を確認しました。おめでとうございますDランクへの昇格しました
…戦闘力から鑑みてCランクも可能ですが貴方のSPは既に0の様子。本日は休憩し後日改めての昇格試験をお勧めします」
「そうだな…さすがにこればっかりはどうにも…あと蜘蛛はきついよ」
溜息を吐いて俺は試験を終えた
低レベルの試験ですらフロストスパイダーという鬼畜。
実際車サイズの蜘蛛とか見たら発狂する。