一章 使徒07 - サイン
異世界クラフト 一章 使徒07 - サイン
もちろん、見放す気はさらさらない。そんなつもりがあるなら、こんな手間などかけたりはしない。
なぜなら、リィートはもろに俺のタイプの一人だからだ。
ちなみに付け加えておくと、俺のタイプは大量にある。
「わ、わかりました。サインさせてください、お願いします」
リィートは震えながら頭を下げた。
いい感じだ、俺はその様子を見てゾクゾクする。
「理解してもらえて嬉しいよ。俺の所有物になるといっても、あんたの身分が変わるわけではない。だから、俺以外に所有されることは絶対にないし、売買の対象にもならない。そういうわけだから、奴隷とはまったく違う」
これは俺との契約だ。
つまりこの宇宙において創造主との契約そのものである。
なので、奴隷ではなく使徒となるわけだが……まぁ、今はそこまでのことは説明する必要はないだろう。
契約が終わればわかることだ。
俺は、契約書をボードの上に乗せてリィートに渡す。
リィートはそれを素直に受け取った。
「書くものがないのだけど……」
指摘があった。
そういえばそうだ。俺は完璧に忘れていたので、俺の手のひらの上にボールペンを出現させる。
『ゴッド・マザー』が俺の部屋の中にあるボールペンを解析してコピーしたものだ。
「これを使え」
俺がリィートにボールペンを手渡すと、まだなにか物欲しげに俺の方を見ていた。
俺が黙っていると、リィートは申し訳なさそうに口を開く。
「インクもないと書けないのですが?」
なるほど、そういうことか。
この世界にはボールペンは存在していない。
つまり、つけペン以外は使ったことがないのだろう。
「そのままサインを書いてみろ」
親切な俺は、どうすればいいのか簡単に教えてやった。
すると、半信半疑ながらリィートはサラサラと自分の名前を書きつける。
ちなみに文字はアルファベットではなく片仮名だ。
この世界に平仮名、片仮名、漢字以外の文字は存在していない。
もちろん俺にとってその方が都合がいいからに決っている。
「か、書けました」
リィートは書き終えた同意書を、俺に手渡そうとするが、その手の中で同意書が消えた。
『ゴッド・マザー』が回収したのだ。
「そのボールペンはくれてやる。お前が好きに使うといい」
どのみちこの世界で生み出されたものは『コズミック・スフィア』の外に持ち出すことはできない。
たとえ持ちだせたところで、ボールペンなんていくらでもある。
「あ、ありがとうございます。宝物にします!」