一章 使徒06 - 再現
異世界クラフト 一章 使徒06 - 再現
獲物は体の下半分がほぼなくなっていたが、それでもまだ生きていた。
下から見上げるその美しい顔は、苦しみに彩られながらも悲しげに見えた。
何かを話そうとしたが、口からは大量の血液が流れだし、声になることはなかった。
まぁ、その話は後で聞くことが出来るし、特に気にならない。
すぐにリィートの瞳から光は消え、完全に動かなくなった。
そのことを確認した後、俺は『ゲート』から出る。
あの状況では、リィートと話すことは何もできなかったが、たぶん俺のことは認識していただろう。
あれだけしっかりと、お互いの顔を見つめ合ったのだから。
俺は、また出現時刻を少し前にずらし、出現位置を前回帰還位置に設定して『ゲート』をくぐる。
グリフィンは今まさに食事を始めようとするところだったが、まだ食材は手付かずのまま残っていた。
俺は三度目となるグリフィン退治をやった後、リィートと向かい合う。
リィートは腰を抜かして、地面の上にへたり込んでいる。
それも当然で、リィートは今まさに記憶の中で自分がグリフィンによって食われる状況を追体験しているところなのだ。
しばらくの間、リィートはガタガタと震えながら、悲鳴を漏らしていたが、急に力が抜けきったようになって動かなくなった。
おそらく、死の記憶を追体験したのだろう。
動かなくなったリィートは、しばらくしてからヒイッという奇妙な声を上げて、辺りをキョロキョロと見回し始めた。
「わ、わたし……生きてる?」
何かを確認するように、自分の体を触りながら、リィートがそんなことを言っている。
自分が生きていることが理解できいないのだ。
それも無理はないだろう。
何しろ、リィートは本当に一度死んでいる。
「安心しろ、今は生きている。だが、同意書はまだ仮のままだ。また死ぬぞ? グリフィンに食われてな」
俺は、厳然たる事実を告げる。
その上で、新しく出力し直した同意書を見せる。
「どうする? サインするか?」
俺が言うと、何かに怯えるような感じでリィートが頷いた。
「わ、わかったわ。サ、サインする……」
言いながら手を伸ばしてくるが、俺は契約書を引っ込めた。
「それが、人に物を頼む態度か? どうやら、わかっていないようだな。俺はお願いしているわけではない。こっちとしては、あんたがグリフィンに食われようが、どうでもいいんだからな」
わざと突き放した言い方をする。