一章 使徒05 - 実体験
異世界クラフト 一章 使徒05 - 実体験
めんどくさいことだが、実際に体験させてみたほうが話が早そうだ。
俺は同意書に(仮)の字を書き加え、名前の欄に俺の手でリィートの名前を書く。
そのうえでリィートに同意書を見せながら言った。
「これは、仮契約書だ。極めて制限された条件で、お前さんは俺の所有物としてみなされる。具体的に言えば、記憶だけが引き継がれることになる」
この説明もかなり端折っている。
正確には再生後の宇宙に引き継がれるが正解なのだが、そんなことまで説明をはじめたら、それこそ俺の一生をリィートのために捧げる覚悟が必要だろう。
もっとも、俺はこの宇宙にいる限り年をとることはないのだが。
「あなた、何を言っているの?」
今度俺に向けられた視線は、若干変わっていた。
その目が“大丈夫かこいつ?” という感じになっている。
「やはり、説明だけでは埒があかんな。実際に体験してみるか?」
我ながら無慈悲だなぁ、と思いながらの発言だったのだが。
「あなた、さっきから何を言っているの?」
リィートの反応はこんなものだ。
やはり、無知というものは本当に恐ろしい。
俺は、これ以上の説明を断念して『ゲート』をでる。
そこは、いつも通りの俺の研究室だった。
地下二階分を繰り抜いて作れた大きな部屋の中央で、『コズミック・スフィア』が淡い光を放っている。
ついさっきまで、俺はその中にいた。
俺の背後には楕円を半分にぶった切ったような形をした『ゲート』が存在している。
俺は『ゲート』をくぐり抜けて『コズミック・スフィア』の世界に行ってきたのだ。
だが、それはあくまで主観であって、俺がこちらの世界から消えていたのは秒数で言えばヨクト単位の時間にすぎない。
小数点の後にゼロが23個も並ぶような間の出来事だ。
第三者の視点から観測していれば『ゲート』を素通りしただけにしか見えないはずである。
俺がどれだけ長いこと『コズミック・スフィア』内に滞在したところで、その差は生じない。
いかなる方法をもってしても、こちらの世界にいるかぎり、その時間差を検出する手段が存在しないからだ。
ともかく、細かい話はおいといて、俺は時間設定をさっきより少し後にずらし、場所を前回の帰還位置に設定する。
そして、再び『ゲート』をくぐった。
すると、俺の目の前でグリフィンが今まさに獲物を捕食している最中であった。
俺は獲物に夢中になっているグリフィンをさっきより簡単に斃す。
すると、鷲頭の首がついばんでいる獲物と一緒に、俺の足元に落ちてきた。