二章 失われた歴史と未来と22 ― 使徒候補
異世界クラフト 二章 失われた歴史と未来と22 ― 使徒候補
自分と同格の者が生まれるのだから、複雑な気持ちだろう。
だが、第一使徒としての意識を持ってもらう必要があるので、これはその意味でもいい機会となろう。
とはいえ、カラン・クゥリに示した通り、まだ決定事項ではない。
俺が見捨てる可能性もあるし、向こうが拒む可能性もある。
リィートの場合は使徒になる以外の道を俺が塞いだ上で、サインをさせたが、今回はそんなことをするつもりはない。
俺にそこまでやる義理はないからだ。
「ならば、ぜひお会いくだされ。このカラン・クゥリが、お会いできるよう取り計らいましょうぞ。ただし、その条件を満たした上で、病状が回復なされない上は、そのお命亡きものとご覚悟めされい」
殺気はそのままだが、それでもさきほどまでと違い絶望感が消えている。
俺は、その言葉に無言で頷くだけにとどめた。
俺の所有物となれば、自動的に人ではなくなり使徒となる。
それはすなわち真の意味で、永遠不滅の存在となるということである。
当然病気などで死ぬことはなくなるし、その他の一切の攻撃は通らなくなる。
もちろん、俺に攻撃が通るはずもない。
どれほどの達人であろうと、俺の命を絶つことは不可能だ。
ただ、俺はその事実をこの老人に告げるつもりはなかった。
「わかり申した。では、今すぐファリス王女殿下へ向けた書状と、宮廷を自由に歩けるように、近衛兵への指示書をご用意いたす」
カラン・クゥリは座卓の上で書類を幾つか書き上げて、書簡の形にする。
そのうち一つは蝋を垂らして指輪を使い封じた。
おそらくそれが、ファリス王女への書状だろう。
義理堅い老人である。
「どうぞ、これをお持ちくだされ。封蝋を施してあるのは、ファリス王女殿下へ向けたもの。後の二通は我が名を出して、近衛兵に師団長のカシム・アーギル宛だと言ってお渡しくだされればよい」
そう言って俺に向かって三通の書簡を手渡してくれた。
俺はありがたく受け取ると、そのままリィートに渡す。
「わたしが責任を持って、お持ちいたします」
俺が無言で渡した書簡を、リィートはそう言いながら受け取った。
これで、もうここに用はなくなった。
想像以上の収穫があったといえるだろう。
俺とリィートは、狭いが居心地の良い空間から外にでて、そのままカラン・クゥリに別れを告げる。
「それでは俺とリィートは、このまますぐに王宮へと向かう。結果は自ずとすぐに知れることになるだろう。それではご老人。今日の所はこれで」
俺の言葉にこたえて、カラン・クゥリが頭を下げた所で、そいつは現れた。




