二章 失われた歴史と未来と19 ― 向き合う空間
異世界クラフト 二章 失われた歴史と未来と19 ― 向き合う空間
俺はとっくに決まっていた答えをそのまま返す。
「街ごと消そうと依頼されるような人物が見たくなった、ということもある。ただそれ以上に、この国の王と対立することをじさないような人物であることが確定しているから、ということを考慮した」
俺の言葉にカラン・クゥリは笑い出す。
たった今まであった殺気は綺麗に消えていた。
「ははは。それもそうですな。この状態ではごまかしようもありますまい。ここまで率直に話されたのなら、こちらも誠意を見せましょうぞ。どうぞ、ついて来てくだされ」
そう言って、カラン・クゥリはいきなり立ち上がる。
そして、先頭に立って歩き始めて、宿の奥に入っていく。
そこは、他の建物とは別棟となっており、茶室のような小さな建物であった。
そこに、にじり口のような場所から靴を脱いで入っていく。
俺とリィートもそれに続いた。
中はさすがに畳ではなく板張りだったが、材質の良い古木が使われており、繰り返し延々と磨き上げられて落ち着いた色の光沢を放っている。
調度品というものといえば、中央に置かれている古めかしい座卓と部屋の隅にある花瓶くらいのもので、それも含めて贅沢品と呼べるようなものは何もなかった。
おそらく花瓶にはそれなりの価値があるのだろうが、俺にはわからない。
せいぜい三メートル四方ほどの狭い空間に三人で入ると、けっこうな窮屈感があるがなぜか居心地は悪くなかった。
丸い座卓を挟む形で俺とカラン・クゥリが向い合って座る。俺の右手にリィートが座った。
カラン・クゥリが自分の横の床をトンと叩くと、板が一枚浮き上がる。
浮いた床をはぐると、そこには畳まれた書類が入っていた。
「まずは、これをご覧あれ」
カラン・クゥリは取り出した書類を座卓の上に広げる。
「これは、密約書。それも、魔族の王ダートナーから送られたもの。送り先の相手は書かれていないが、当然ご承知なのでは?」
俺はさっと目を通してそう尋ねた。
ちなみに書かれている内容は、我が娘シヴィラをそっちに向かわせるから、ネリフ王に引きあわせてカラン・クゥリ暗殺のために利用するように進言しろというものであった。
どうやら、シヴィラは好き勝手やっているつもりだったようだが、魔族の王ダートナーの掌の上で転がされていただけのようだ。
請け負ってきた仕事の内容を考えれば当然だとは思うが、あのシヴィラならこの先気づくことはあるまい。
それはともかく、問題なのはこの手紙の受取人だ。
その人物が王国内の内通者ということになる。




