二章 失われた歴史と未来と16 ― 発端
異世界クラフト 二章 失われた歴史と未来と16 ― 発端
「魔族の王女の目的は、強力な魔法を使ってあなたごと、この街を消し去ることだった。その証拠となる魔族の王女は俺の支配下においてあるので、この場に連れてこれるがいかがか?」
俺は余計な回り道はせずに事実だけを話す。
この老人に嘘が通用しないことはわかっている。
ここで妙な策を弄せば、信頼を失いかねない。
「それには及ばない。昨夜、妙な魔波動を感じもうした。その後、かつてないほどの強力な魔法が使われたなと感じていたのですが、結局何事もなかった。今の話しを聞けば、なるほどと腑に落ちる。この老人の目も、まだまだ霞んではおらなんだと、今の話しを聞いて安心いたした」
カラン・クゥリはそう話した後、カカカと豪快に笑ってみせた。
やはり下手な韜晦でもしたなら、たちどころに看破されていたところだろう。
つくづく恐ろしい老人である。
「そこで、問題なのは魔界の王女の雇い主なのだが……」
俺が言葉をそこで止める。
すると、その理由を言外にさっして、老人はこの場に立ち会っていた警護の男に向かって、軽く手を振った。
すると警護の男はなにも言わずにこの場を立ち去る。
「もう、われら三人以外にこの話しを聞くものはおらんよ」
カラン・クゥリの保証通り、マップで確認しても可聴圏内に人はいなかった。
俺は、安心して続きを話す。
「ネリフ・ハズ・カルフ三世」
俺は、名前だけを伝えた。
カラン・クゥリは驚いた様子も見せずに、ただその目が鋭く光る。
「そのことを知るものは?」
短い質問だったが、剣で突き刺すような感覚だった。
「もちろん俺。紹介状を書いてくれた宮廷魔術師のティータと、実際に闘った、ここにいるリィート。そして、俺が今支配下に置いている仕事を請け負った当人である魔界の王女。そして、あなただ、ご老人」
それを聞いたカラン・クゥリは、人差し指で自分の顎を軽く撫でながら、しばしの間黙って何かを考えていた。
「このことは、一切他言無用に願いたいのだが、ご承知いただけますかな?」
口を開いたカラン・クゥリはそんな提案をしてきた。
「もとより」
俺はうなずきながら、短く答えた。
「それは重畳。そうなると、問題は魔界の王女シヴィラがどうでるかということになりますな。金で危険な仕事を受けては、あちこちで派手に暴れまわっていると聞きますが。金を積まれたら、すぐにばらしてしまうのではないですかな?」




