二章 失われた歴史と未来と15 ― 屈強な老人
異世界クラフト 二章 失われた歴史と未来と15 ― 屈強な老人
リィートは宮廷魔術師の従姉妹である旨を警護の男に伝え、カラン・クゥリへの取次を申し込んだ。
すぐに面会は受理されて、俺とリィートは宿の中へと案内される。
宿の中には、外からは想像もつかない、みごとな中庭があり、美しい景色がそこにあった。
俺とリィートが案内されたのは、その中庭の真ん中に置かれている、石造りの長椅子の前であった。
長椅子には高齢の男性が一人で座っており、手には湯のみが握られている。
「これはこれは。宮廷魔術師の従姉妹どのと、そのお連れの方がこの老人にいかなる御用がおありかな?」
見た目は痩せていて、着ている服も何度も洗いざらしたような貧素なものだが、この老人を舐めてかかることが出来るような者はそうはいまい。
そこにそうしてただ座っているだけで、まるで抜身の刀を前にしているような怖さがあった。
わざわざプロフィールを見るまでもなく、この老人が屈強の兵法者であることはたやすく見て取ることができる。
おそらく、護衛が二人しかついていないのは、それだけしか必要ないからなのだろうと思われる。
もしかしたら、本当はまるで必要ないのかも知れないが。
「まずはこちらを」
そう言って、リィートが書簡を渡す。
「ほう? ティータ殿の書簡ですな。拝見いたしましょう」
カラン・クゥリはすぐに書簡開いて中身を確認する。
「では、あなたが宮廷魔術師殿のご師匠ということになられるわけですかな? 失礼ですが、それにしては随分とお若いようにお見受けいたしますが」
当然のような疑問を口にしてくる。
その質問に答えたのは、俺ではなくリィートだった。
「サトウ・ハジメさまは、わたくしの師でもあります。幼少期に師と出会い、その当時から現在まで、お姿はまったく変わられておりません」
もちろんそれは大嘘だ。
ただ、それが嘘であることを立証することはまず不可能だろう。
「なるほど。では、そういうことにいたしましょう。それでは、ご用件の方をお聞かせいただけますかな?」
さっそくバレている。
歴戦の経歴を重ねてきた老人を騙そうというのは、やはり無理がある。
ただまぁ、それに関してはどうでもいいことなので俺の方もこれ以上触れるつもりはなかった。
「昨夜、魔族の王女とここにいるリィートが闘った」
俺はいきなりそう切り出した。
「ほう?」
興味深そうな反応をカラン・クゥリが見せる。




