二章 失われた歴史と未来と14 ― 最後のパーツ
異世界クラフト 二章 失われた歴史と未来と14 ― 最後のパーツ
そう言って、俺は『ゴッド・マザー』に出力させた用紙をティータに渡す。
突然出現した紙に驚いたはずだが、ティータはそのことには触れなかった。
「これは?」
代わりにそう聞いてくる。
印刷されているのは、メルカトル図法で書かれたこの惑星の地図である。
よく見ればその中に、赤点が記されているはずだ。
「『トリガー』の現在位置だ。それをどう使うかは君に任せる」
俺の言葉に、ティータは絶句していた。
地図を持つ手が震えているように見えるのは、けして気のせいではないだろう。
「よ、よろしいのですか?」
ようやく絞りだすように言った言葉はそれだった。
「ああ、すべて君の判断に任せる」
ティータはおそらく現在における『アヴィル』研究の第一人者だ。
この情報を託すに、彼女以外の人材はいないだろう。
「泡沫のごときエルフの身でございますが、身命を賭してもご期待を裏切らぬよう尽くしてまいります。今日は私が生まれていらい、最も重要な日になりました。こうして直接お会い出来たことを、生涯の宝といたします」
ティータはそんな言葉を口にして頭を下げる。
しかし、その中にお礼の言葉が含まれなかったのは『トリガー』を託されたことへの重責を彼女なりに感じてのことだろう。
正直、俺にとってはどうでもいいことだったのだが。
それよりも、だ。
「一応言っておく。これから先どうなるにせよ、あまり力を入れすぎると息切れするぞ。付き合いは始まったばかりなんだからな」
俺の使徒であるリィートの従姉妹でもあるのだから、縁が切れるということはありえない。
もちろん、俺個人としての下心はたんまりとある。
だがそれは、また後の話しだ。
「それじゃ、いこうか?」
俺が話しをリィートに振ると、
「いつなりとも」
すぐに返事が帰ってくる。
デカイ荷物を抱えているが、特に気にもしていない様子だった。
俺はリィートに軽く手を触れて、転移する。
場所は宿だ。
そこですやすやと気を失ったままの荷物を放り出した後、カラン・クゥリが滞在している宿に向かった。
もちろんこれは自分の足でだ。
距離的に近いこともあるが、いきなり転移してきた人物を不審者扱いしない人間はいないだろう、という常識的な判断からである。
目的の宿は街中を通っている街道からは少し離れた場所にあった。
あまり目立たない地味な宿で、屈強そうな警護の男二人が立っていなければ、そうだとは気づかれそうもない。
俺はリィートに書簡を渡して、警護の男との交渉をたのむ。




